売上が落ちる前に見る数字

会社の業績を確認するとき、多くの経営者が最初に見るのは”売上高”です。
今月はいくら売れたのか。前年同月と比べてどうだったのか。計画に対してどの程度達成しているのか。売上高は分かりやすく、経営者にとって最も身近な経営数字の1つです。
しかし、売上高には大きな弱点があります。
売上高に異変が現れたときには、すでにその原因が数か月前から起きていることが多いのです。
例えば、主要顧客からの問い合わせが以前より少なくなり、その後に見積依頼が減り、受注件数が減少し、最終的に売上高が落ちるという流れがあります。経営者が売上高だけを確認していると、最後の段階になって初めて異変に気づくことになります。
これは、営業担当者が怠けているという話ではありません。
売上とは、それまでの営業活動や顧客行動の結果として現れる数字だからです。
特に業績が悪化し始めた会社では、「売上が落ちてから営業を強化する」という対応では遅れることがあります。新規営業を始めても、すぐに受注できるとは限りません。既存顧客との取引を増やそうとしても、顧客側の事情によっては数か月かかります。
だからこそ、経営者は売上高だけを見るのではなく、その前に動く数字を見る必要があります。
問い合わせ件数、見積件数、受注件数、受注残、主要顧客の発注量、案件単価、失注理由などです。
これらの数字は、将来の売上を直接保証するものではありません。しかし、売上が悪化する前の変化を捉える手掛かりになります。
業績悪化を早く察知するためには、結果を見るだけでなく、結果が生まれるまでの過程を見ることが重要です。
目次
■ 売上は遅行指標
売上高は、すでに起きたことを表す数字です。
商品を販売した、サービスを提供した、案件を納品したという結果が会計上の売上として計上されます。そのため、売上高が減った時点では、その原因はすでに過去にあります。
例えば、3月の売上が前年より20%減っていたとします。
原因を調べると、1月から見積依頼が減っていたのかもしれません。さらに遡ると、前年12月頃から主要顧客との商談数が減っていた可能性もあります。
つまり、3月に売上減少を確認してから原因を探し始めても、本来対処すべき時期は数か月前だったということがあります。
経営管理では、この時間差を意識する必要があります。
売上高は重要な指標ですが、売上高だけを見ていては早期発見には向きません。
将来の売上につながる活動が減っていないかを確認することが必要です。
売上が悪くなったから営業に力を入れるのではなく、営業活動の変化を見て、売上が悪くなる前に手を打つ。これが、業績悪化を防ぐ経営管理の基本です。
■ 受注量を先に見る
売上より早く変化が現れやすい数字の1つが受注です。
製造業や制作業、受託型サービス業などでは、受注してから売上になるまで一定の時間があります。そのため、受注額や受注件数が減少すれば、その数週間後、数か月後に売上へ影響する可能性があります。
ここで重要なのは、単月の受注額だけを見ないことです。
大型案件が1件入れば、その月の受注額は大きく増えます。反対に、大型案件の受注時期が翌月へずれただけで、急激に減少して見えることもあります。
だからこそ、3か月程度の移動平均で見る、前年同期と比較する、主要顧客ごとに推移を見るといった方法が有効です。
特に注意したいのは、受注額ではなく受注件数が先に減っている場合です。
現在は大型案件が残っているため受注額としては問題がない。しかし、小口案件の件数が少しずつ減っている。この状態を放置すると、大型案件が終了した後に急激に売上が落ちる可能性があります。
逆に、受注件数は増えているのに受注額が伸びていないのであれば、案件単価が下がっている可能性があります。
受注を見るときには、金額と件数をセットで見ることが重要です。
■ 見積件数を追う
受注よりさらに前の段階にあるのが見積です。
多くの会社では、受注前に顧客から見積依頼があります。見積提出後に比較検討され、その一部が受注につながります。
したがって、見積件数が減れば、その先の受注も減る可能性があります。
例えば、毎月平均して40件の見積依頼があった会社で、3か月連続して30件、25件、20件と減っているのであれば、まだ売上に影響が出ていなくても注意が必要です。
その減少が、一時的なものなのか、主要顧客の発注方針が変わったのか、競合他社へ流れているのかを確認する必要があります。
一方で、見積件数だけ増えても安心はできません。
見積を100件出して10件しか受注できていない会社と、40件出して20件受注できている会社では、営業活動の質が異なります。
そのため、見積件数と合わせて受注率も確認します。
見積件数は維持されているのに受注率が低下している場合、価格競争が激しくなっている、顧客ニーズと提案内容がずれている、営業対応が遅いなど、別の問題が発生している可能性があります。
見積は単なる営業事務ではありません。
将来の売上を予測するための重要な情報です。
■ 失注理由を残す
見積を出して受注できなかった場合、その理由を残す習慣も重要です。
多くの会社では、受注案件は管理していても、失注案件については十分に記録していません。
受注できなかったという事実だけで終わり、その原因が蓄積されないのです。
しかし、失注理由の変化には市場の変化が表れます。
以前は価格で負けることが少なかったのに、最近は「他社の方が安い」という理由が増えているのであれば、競争環境が変化している可能性があります。
「今回は見送る」という回答が増えているのであれば、顧客側の投資意欲が低下しているのかもしれません。
「既存業者へ依頼する」という理由が多ければ、自社の提案内容や営業方法を見直す必要があります。
1件ごとの失注理由を深刻に考える必要はありません。
しかし、3か月、6か月と蓄積すると、傾向が見えてきます。
失注は失敗の記録ではなく、市場から得られる情報です。
その情報を残すことで、経営者は売上が下がる前に競争環境の変化を察知できます。
■ 主要顧客を分ける
中小企業では、売上の多くを少数の顧客に依存していることがあります。
この場合、全社売上だけを見ていては、重要な変化を見逃します。
例えば、売上全体は前年並みでも、最大顧客からの売上が20%減少し、その分を複数の小口顧客で補っている場合があります。
全社数字だけを見れば問題ありません。
しかし、最大顧客からの発注減少が今後も続けば、翌期には補いきれなくなる可能性があります。
そのため、売上構成の大きい顧客については、個別に推移を見る必要があります。
少なくとも売上上位5社や10社については、前年同月比、直近3か月の推移、発注件数や案件単価などを継続的に確認したいところです。
重要なのは、減少したという事実だけではなく、その理由を把握することです。
顧客側の業績悪化なのか、担当者変更なのか、競合への切替えなのか、一時的な案件減少なのかによって、対応は変わります。
主要顧客の動きを全社売上の中に埋もれさせないことが重要です。
■ 発注間隔を見る
顧客の変化を見るときには、売上金額だけでなく発注間隔にも注意します。
例えば、これまで毎月発注していた顧客からの注文が2か月に1回になった場合、1回あたりの金額が変わっていなければ、最初のうちは大きな異変に見えないかもしれません。
しかし年間で考えれば、売上は半分になる可能性があります。
定期的に発注がある顧客ほど、発注間隔の変化は重要なサインになります。
発注量が急にゼロになるとは限りません。多くの場合、最初は発注頻度が下がり、案件規模が小さくなり、徐々に取引が減っていきます。
こうした変化は、営業担当者が感覚的に把握していることもあります。
しかし、「最近少し注文が少ない気がする」という感覚だけでは、経営判断にはつながりにくいものです。
過去12か月程度の発注履歴を並べれば、頻度の変化は数字として確認できます。
顧客との取引がなくなってから理由を聞くのではなく、取引量が減り始めた段階で状況を確認する。
これが、顧客離れを早期に捉えるためには重要です。
■ 単価を確認する
売上減少だけでなく、案件単価の低下も業績悪化の前兆になります。
受注件数が変わっていなくても、1件あたりの単価が下がれば売上は減ります。
さらに問題なのは、単価低下が粗利益率の悪化につながる場合です。
顧客から値引きを求められることが増えた、競争案件が増えた、営業担当者が受注を優先して価格を下げているといった変化があれば、売上以上に利益へ影響します。
例えば、受注件数が前年と同じ100件でも、平均単価が50万円から45万円へ下がれば、売上は5,000万円から4,500万円へ減少します。
原価が同じであれば、その500万円はそのまま粗利益の減少につながる可能性があります。
件数が維持されていると、現場では「仕事は減っていない」という認識になりやすいため、単価低下は見逃されがちです。
だからこそ、受注額と件数から平均単価を確認し、その推移を見ることが重要です。
価格の低下は、売上減少より早く会社の採算を悪化させます。
■ 受注残を確認する
将来の売上を考えるうえで、受注残も重要です。
すでに受注しているものの、まだ売上計上されていない案件がどの程度あるのかを確認することで、数か月先までの売上の見通しを立てやすくなります。
例えば、毎月1億円程度の売上が必要な会社で、3か月後までの受注残が5,000万円しかないのであれば、今後新たな受注を積み上げなければ売上不足になります。
一方、十分な受注残があれば、短期的な売上はある程度確保されていると考えることができます。
ただし、受注残は金額だけで見るのではなく、いつ売上になるのかまで確認する必要があります。
年間で2億円の受注残があっても、その多くが10か月後の納品予定であれば、直近の売上不足は解消しません。
受注残を月別に配置し、今後3か月、6か月の売上見込みとして見る。
これを習慣化すると、「来月は大丈夫だが、3か月後から案件が薄い」といった変化を早く把握できます。
売上が落ちてから案件を探すのではなく、受注残が薄くなった段階で営業活動を強化することが重要です。
■ 営業会議を変える
業績悪化を早く察知するためには、営業会議の内容も見直す必要があります。
営業会議が今月の売上実績と目標達成率の確認だけで終わっている会社は少なくありません。
しかし、売上実績はすでに終わった結果です。
もちろん結果確認は必要ですが、それだけでは将来の売上は見えません。
営業会議では、受注額、見積件数、受注率、受注残、主要顧客の動向、失注理由なども確認した方がよいでしょう。
その際、数字を読み上げるだけでは意味がありません。
例えば、見積件数が前年より20%減っているのであれば、なぜ減ったのかを確認します。特定顧客の発注量が下がっているのであれば、顧客側で何が起きているのかを担当者に確認します。
数字と営業現場の情報を組み合わせることで、初めて経営判断につながります。
また、営業担当者を責めるために数字を見るのではありません。
問題を早く発見し、会社として対応するために数字を見るという運用が必要です。
数字の悪化を報告すると叱責される会社では、悪い情報ほど経営者へ届かなくなります。
早期発見のためには、悪い情報が早く上がってくる組織を作ることが重要です。
■ 毎月の型を作る
経営者が毎月確認する項目は、多ければよいわけではありません。
むしろ、継続できる量に絞る方が重要です。
例えば、売上高、受注額、見積件数、受注率、受注残、主要顧客5社の売上推移、平均案件単価といった項目を、毎月同じ形式で確認します。
さらに、前年同月や計画値との差を並べておけば、変化に気づきやすくなります。
これを毎月同じ日に行います。
営業会議や経営会議の資料として確認してもよいですし、小規模な会社であれば経営者自身が30分程度確認するだけでも構いません。
大切なのは、業績が悪くなったときだけ行うのではなく、通常時から続けることです。
普段の数字を知っていなければ、異常が発生しても異常だと分かりません。
毎月の正常な状態を知っているからこそ、「今月は少し違う」と気づくことができます。
経営管理における習慣化とは、複雑な管理資料を増やすことではありません。
確認する項目と時期を決め、それを繰り返すことです。
■ 畔の見方
畔ではまず、売上が作られるまでの流れを確認します。
問い合わせがあり、見積を出し、受注し、納品して売上になる会社であれば、その各段階の数字を見ます。
見積件数は減っていないか、受注率は下がっていないか、受注単価は変わっていないか、受注残は十分にあるか。さらに、主要顧客については売上や発注頻度の変化を個別に確認します。
重要なのは、その会社の事業構造に合わせて「売上より先に動く数字」を見つけることです。
業種業態によって先行指標は異なります。
店舗型の事業であれば来店客数や客単価かもしれません。製造業であれば受注量や受注残、稼働率が重要になるでしょう。受託サービス業であれば、問い合わせ件数、商談数、見積提出数などが有効です。
すべての会社で同じ指標を見る必要はありません。
自社の売上がどのような過程で作られているのかを整理し、その過程のどこに変化が起きているのかを見ることが重要です。
そして、数字に変化があれば現場へ確認します。
見積件数が減った理由は何か、主要顧客の発注量が落ちた理由は何か、受注率が下がったのは価格なのか提案内容なのか。数字と現場の情報をつなぐことで、初めて次の対応を選ぶことができます。
会社の売上は、突然なくなるわけではありません。
多くの場合、その前に何らかの変化があります。
問い合わせが減る。見積依頼が減る。受注率が下がる。案件単価が低下する。主要顧客の発注間隔が長くなる。受注残が少なくなる。
こうした変化が積み重なった結果として、数か月後の売上高に影響が現れます。
だからこそ、売上が前年を下回ってから「営業を強化しよう」と考えるのではなく、その前の段階で変化を察知する必要があります。
経営者が見るべきなのは、過去の売上高だけではありません。
これから売上になる可能性のある仕事が、十分に存在しているかどうかです。
そのために、受注、見積、受注率、受注残、主要顧客の動向などを毎月同じ形式で確認する。
そして、少しでも変化があれば、その理由を確認する。
大きな問題になってから対応するより、小さな違和感の段階で原因を探す方が、取れる対策ははるかに多くなります。
営業方法を変える、既存顧客への提案を増やす、価格を見直すこともできますし、新しい顧客開拓に早く着手することもできます。
業績悪化を完全に防ぐことはできません。
しかし、悪化の兆候を早く発見することはできます。
そのために必要なのは、毎月の売上を見ることだけではありません。
売上が生まれる前の数字を見続けること。
それが、売上減少を早く察知するために、経営者が身につけておきたい習慣です。
この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士
谷中 憲
(たになか あきら)
中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

