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資金繰りが苦しくなってから銀行へ行ってはいけない

会社の資金繰りが苦しくなると、経営者は金融機関へ相談します。

追加融資を受けられないか、既存借入金の返済負担を軽くできないか、当面の運転資金を確保できないか。資金繰りが厳しい局面では、金融機関との交渉が会社の存続を左右することもあります。

しかし、本来、金融機関との関係を強く意識すべきなのは、資金が足りなくなったときではありません。

まだ利益が出ているとき、預金にも余裕があるとき、借入金の返済にも問題がないときです。

経営者からすると、「今は借りる必要がないのだから、わざわざ銀行へ行く必要はない」と感じるかもしれません。実際、資金調達の必要がなければ、金融機関との面談を後回しにしてしまう会社もあります。

ところが、会社の信用力は、資金が必要になった瞬間に作れるものではありません。

業績が悪化し、預金残高が急速に減少し、数か月後には資金不足になることが分かってから初めて金融機関へ相談した場合、金融機関側も慎重になります。

なぜ急に資金が必要になったのか。赤字の原因は何なのか。今後どのように改善するのか。追加融資を行って、本当に返済できるのか。

当然、こうした確認が必要になります。

一方、平時から会社の状況を共有している金融機関であれば事情は異なります。会社の事業内容や主要顧客、過去の業績、今後の計画についてある程度理解しています。経営者がどのような考えで会社を運営しているかも分かっています。

同じ会社であっても、日頃から情報共有している場合と、資金不足になって突然相談する場合とでは、金融機関から見える姿は大きく異なります。

予防的な経営管理には、社内の数字を見ることだけでなく、資金調達力を平時から維持しておくことも含まれます。

■ 銀行は平時に会う

金融機関との面談というと、融資を申し込むために行うものだと考えがちです。

しかし、融資の必要がない時期にも定期的に情報を共有しておくことには意味があります。

例えば、決算が終わった段階で前期の結果と今期の見通しを説明する。四半期ごとに足元の業績や主要な経営課題について共有する。大きな設備投資や新規事業を検討しているのであれば、実行前から相談しておく。

こうした関係が続いていれば、金融機関側も会社の変化を継続して見ることができます。

反対に、数年間ほとんど連絡がなく、突然「来月までに3,000万円必要です」と相談された場合、金融機関はその間に会社で何が起きていたのかを一から確認しなければなりません。

もちろん、定期的に面談しているから融資が必ず受けられるということではありません。融資判断は会社の財務状況や事業性、返済可能性などによって行われます。

それでも、会社の状況を継続的に理解してもらっていることは、資金調達を考えるうえで重要です。

銀行との関係は、融資申込書を提出した瞬間から始まるものではありません。

■ 借入残高を分ける

経営者は、自社の借入金総額については把握していることが多いでしょう。

しかし、総額だけでは十分ではありません。

どの金融機関からいくら借りているのか、何のために借りた資金なのか、返済期間はいつまでなのか、毎月いくら返済しているのか、金利はどの程度なのか、担保でどのくらい保全できているかまで整理する必要があります。

例えば、借入金が1億円ある会社でも、10年間で返済する設備資金が中心なのか、短期間で返済する運転資金が中心なのかでは、資金繰りへの影響が異なります。

また、同じ金融機関から複数の融資を受けている場合でも、それぞれの返済時期が重なることで特定の期間だけ返済負担が重くなっていることがあります。

決算書の借入金残高を見るだけでは、この構造は分かりません。

金融機関別、借入契約別に残高、金利、月額返済額、最終返済期限を一覧にすると、会社が今後どの程度の返済負担を抱えるのかが見えてきます。

借入金管理は、「いくら借りているか」を確認する仕事ではありません。

「今後、いつ、いくら会社から資金が出ていくか」を把握する仕事です。

■ 返済額を把握する

借入金について、特に経営者が確認しておきたいのが年間の元金返済額です。

支払利息は損益計算書に費用として表れますが、借入金の元金返済は費用ではありません。

そのため、利益だけを見ていると返済負担を見落とすことがあります。

例えば、会社が年間2,000万円の利益を確保していたとしても、借入金の元金を年間4,000万円返済していれば、それだけでは資金が不足します。

実際には減価償却費や運転資金の増減なども考慮する必要がありますが、少なくとも「利益が出ているから返済には問題がない」と単純には判断できません。

会社が本業から生み出している資金と、年間返済額を比較する必要があります。

業績が良かった時期に多額の借入を行い、その後売上や利益が縮小した会社では、借入残高よりも返済速度が問題になることがあります。

会社の規模は小さくなったのに、返済計画だけが以前の収益力を前提としている状態です。

こうした問題も、資金繰りが苦しくなってから気づくのでは遅い場合があります。

まだ正常に返済できている段階で、数年先までの返済予定を確認しておくことが重要です。

■ 金利は上昇すると考える

金利についても、「現在いくら払っているか」だけではなく、条件が変わった場合を考えておく必要があります。

借入金額が小さければ、多少金利が上昇しても経営への影響は限定的です。

しかし、借入残高が大きい会社では違います。

例えば、借入金残高が3億円ある会社で平均金利が0.5ポイント上昇すれば、単純計算では年間150万円の利息負担増になります。1ポイント上昇すれば年間300万円です。

それだけで会社が経営危機になるわけではありませんが、原材料価格や人件費、物流費なども同時に上昇しているのであれば、その300万円も利益を圧迫する要因の1つになります。

特に注意したいのは、借入金利の上昇を「銀行との交渉の問題」だけとして考えることです。

本来は経営計画の問題です。

金利が一定程度上昇しても利益を確保できるのか。返済を続けながら必要な設備投資ができるのか。金利負担が増えた場合、資金繰りにどの程度影響するのか。

こうした試算を平時に行っておけば、条件変更を受けてから慌てる必要がありません。

■ 借換えを早く考える

借入金の返済負担が重い場合、借換えや返済期間の見直しによって毎月の資金負担を調整できる可能性があります。

ただし、これも資金繰りが限界に近づいてから検討するより、余裕がある段階で考える方が選択肢は多くなります。

例えば、設備投資のために短い返済期間で借りた資金があり、その設備を今後も長期間使用するのであれば、現在の返済期間が事業実態に合っているかを確認する余地があります。

複数の借入によって毎月の返済時期や管理が複雑になっている場合には、整理できないかを金融機関へ相談する方法もあります。

重要なのは、「返済できなくなったから返済条件を変えてほしい」という段階まで待たないことです。(※こうなると大変です)

返済に問題がない段階であれば、会社には金融機関を選ぶ余地もあります。条件を比較し、今後の事業計画に合った資金調達方法を検討する時間もあります。

資金が逼迫してからでは、「より良い条件を選ぶ」というよりも、「対応してくれるところを探す」という状況になりやすくなります。

同じ資金調達でも、動き始める時期によって交渉環境は大きく変わります。

■ 運転資金を知る

「借入はできるだけ少ない方がよい」と考える経営者は少なくありません。

もちろん、不必要な借入を増やす必要はありません。

しかし、会社には事業を回すために一定の運転資金が必要です。

顧客から入金される前に、仕入先や外注先への支払い、給与、家賃などを支払わなければならない事業であれば、その時間差を会社の資金で埋める必要があります。

売上が増えると、この必要資金も増えることがあります。

そのため、借入金があること自体を問題と考えるのではなく、「自社では通常どの程度の運転資金が必要なのか」を把握することが重要です。

必要運転資金が分かっていれば、現在の預金と借入枠で十分なのかも判断できます。

反対に、運転資金の必要額を把握しないまま借入残高だけを減らしてしまうと、売上が増えたときに資金不足になることもあります。

財務管理では、「借金を減らすこと」が目的なのではありません。

事業を安定して運営できる資金構成を作ることが目的です。

■ 融資枠を残しておく

手元資金が十分にある会社では、使っていない融資枠や当座貸越などを不要と考えることがあります。

しかし、緊急時に利用できる資金調達手段を持っていることには価値があります。

例えば、大口取引先の入金が急に遅れた、予定外の設備故障が発生した、原材料を通常より多く仕入れる必要が生じたといった場合、短期間だけ資金が必要になることがあります。

そのたびに新規融資を一から申し込んでいては、資金が必要な時期に間に合わない可能性があります。

もちろん、融資枠にも条件や費用がありますので、すべての会社が持つべきだという意味ではありません。

重要なのは、想定外の資金需要が発生したときに「何を使えるか」を平時に確認しておくことです。

預金だけで対応するのか、既存の融資枠があるのか、新規融資が必要なのか。

資金調達手段を複数持っている会社ほど、突発的な出来事に対して柔軟に対応できます。

■ 銀行に何を伝えるか

金融機関と定期的に話すといっても、毎回特別な資料を作る必要はありません。

むしろ重要なのは、同じ情報を継続して共有することです。

直近の売上や利益はどうなのか、計画との差はどこにあるのか、資金繰りに大きな変化はないか、現在どのような経営課題に取り組んでいるのか。そして、今後設備投資や資金需要が発生する可能性があるのか。

こうした内容を継続して伝えていれば、会社の変化を理解してもらいやすくなります。

業績が悪くなった場合も同じです。

悪い数字を隠し、決算が終わってから説明するより、途中で変化が見えた段階から理由と対応策を説明する方がよいでしょう。

金融機関が最も不安になるのは、業績が悪いことだけではありません。

会社自身が原因を把握していない、今後の見通しを持っていない、説明していた内容と実態が大きく違うといった状態です。

良い情報だけを伝えることが金融機関との関係づくりではありません。

悪い情報も含めて、経営者が会社の状態を把握し、対応していることを継続して示すことが重要です。

■ 複数行と関係を持つ

中小企業では、長年付き合っている1つの金融機関へ取引が集中していることがあります。

関係が深いこと自体は悪いことではありません。会社の事業を理解している金融機関があることには大きな価値があります。

しかし、資金調達を1行だけに依存することにはリスクもあります。

金融機関側の融資方針が変わることがあります。担当者や支店長が変わり、それまでと判断が異なることもあります。

自社に問題がなくても、金融機関側の事情によって希望どおりの対応を受けられない可能性はあります。

そのため、会社の規模や借入額によっては、複数の金融機関との関係を維持しておくことも検討すべきです。

これは毎回金融機関同士を競わせて、最も低い金利だけを求めるという話ではありません。

資金調達の選択肢を1つに限定しないということです。

経営状態が良い時期だからこそ、新しい金融機関とも関係を作ることができます。

困ったときだけ初めて相談するより、平時から自社を知ってもらう方が自然です。

■ 説明資料を整える

金融機関との関係を維持するうえでは、会社の数字を説明できる状態にしておくことも重要です。

決算書を提出するだけではなく、なぜその数字になったのかを経営者自身が説明できる必要があります。

売上が前年より減ったのであれば、その理由は何なのか。粗利益率が低下したのであれば何が起きたのか。逆に、利益が改善しているのであれば、どの施策が効果を出したのか。

さらに、今年度の着地見込みと今後の資金繰りについても説明できれば、金融機関側は会社の先行きを判断しやすくなります。

この準備は金融機関のためだけではありません。

経営者自身が会社の状態を整理する機会にもなります。

銀行から「今期の営業利益はどの程度になりそうですか」と聞かれて初めて考えるのではなく、普段から答えられる状態にしておく。

金融機関へ説明できる会社は、経営者自身も会社の状況を把握している可能性が高くなります。

■ 畔の見方

経営状態が悪化した会社の資金調達を考える際、私は「いくら借りられるか」だけを見ることはしません。

まず、今後どの程度の資金が必要なのかを確認します。

現在の手元資金はいくらあるのか、毎月どの程度の利益または損失が発生しているのか、借入金の年間返済額はいくらなのか、今後どの時点で資金が不足する可能性があるのか。

そのうえで、必要な資金調達額を考えます。

本業が赤字であれば、追加融資だけで問題を解決することはできません。借りた資金を使っている間に、赤字構造を改善する必要があります。

一方、事業自体は利益を生んでいるものの、借入金の返済時期や入出金条件によって一時的に資金が不足するのであれば、資金調達方法の見直しが有効な場合があります。

つまり、借入金は経営改善策の代わりではありません。

経営改善を実行するための時間を確保する手段として考える必要があります。

だからこそ、会社にまだ信用力と選択肢があるうちから金融機関との関係を作り、資金調達の余地を残しておくことが重要です。

資金繰りが苦しくなったとき、金融機関は非常に重要な存在になります。

しかし、そのとき初めて関係を作ろうとしても、十分な時間がないかもしれません。

会社の業績を説明する資料を準備し、金融機関に事業内容を理解してもらい、融資条件について交渉し、社内審査を受けるには時間が必要です。

そして、経営者側にも時間が必要です。

どの金融機関へ相談するのか、いくら必要なのか、どのような返済計画にするのかを考えなければなりません。

資金があと数週間しか持たない状況では、この時間そのものがありません。

だからこそ、会社に余裕がある時期から、自社の借入状況を整理しておく必要があります。

金融機関別の借入残高、返済期間、金利、年間返済額を把握し、金利が上昇した場合の影響も確認する。自社に必要な運転資金を把握し、突発的な資金需要が発生した場合に使える調達手段も確認しておく。

そして、金融機関とは必要なときだけ会うのではなく、定期的に会社の状況を共有する。

これは、借金を増やすための経営ではありません。

会社が本当に資金を必要としたときに、選択肢を持っておくための経営です。

経営状態が良い会社ほど、金融機関との関係を軽視しがちです。

しかし、業績が悪化してから得られる信用には限界があります。

お金に困ってから銀行へ行くのではなく、困っていないときから銀行と話しておく。

それもまた、会社を大きな資金繰り悪化から守るための予防的な経営管理なのです。

この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士

谷中 憲

(たになか あきら)

中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

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