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業績悪化をいち早く察知する経営者の習慣

会社の業績は、ある月を境に突然悪くなるわけではありません。

決算書を見て「今年は赤字だった」と分かったとき、その赤字の原因は、すでに何か月も前から会社の中で起きています。主要顧客からの発注量が少しずつ減っていたかもしれません。値引きが増え、粗利益率が下がっていたかもしれません。残業時間が増え、外注費が膨らんでいた可能性もあります。

あるいは、売上はそれほど変わっていないのに、売掛金や在庫が増え、預金残高だけが少しずつ減っていたということもあります。

こうした変化は、それぞれを単独で見るとそれほど重大には見えません。

売上が前年同月比で3%減った。粗利益率が1ポイント下がった。主要顧客からの発注が1件減った。ある部署の残業が少し増えた。入金が1週間遅れた。

それだけで会社が危機に陥るわけではありません。

しかし、小さな変化が複数重なり、それが数か月続くと、やがて営業利益の悪化や資金不足として表面化します。

問題は、その時点で初めて気づくことです。

業績悪化への対応では、早く気づくほど選択肢が多くなります。

まだ利益が出ているうちであれば、価格の見直しや顧客構成の変更を時間をかけて進めることができます。資金に余裕があるうちなら、必要な設備投資や人材育成を続けながら、不要な固定費を整理できます。金融機関への相談も、十分な準備をしたうえで行うことができます。

反対に、預金が尽きる直前まで業績悪化に気づかなければ、経営者が選べる手段は急速に少なくなります。

だからこそ、経営者には「異常が起きてから対応する」のではなく、「小さな変化を早く見つける」習慣が必要です。

特別な経営分析を毎日行う必要はありません。

重要なのは、見るべきものを決め、同じものを定期的に見続けることです。

■ 同じ数字を毎月見る

経営数字を見るうえで、最も重要なのは、毎月同じ項目を同じ方法で確認することです。

その月によって気になった数字だけを見るのでは、変化を捉えにくくなります。

今月は売上高を見る。翌月は経費を見る。その次の月は預金残高を見るというように、確認項目が毎回変わってしまうと、それぞれの数字がどのように推移しているのか分かりません。

最低限、売上高、粗利益額、粗利益率、主要な固定費、営業利益、預金残高については、毎月同じ形式で確認したいところです。

重要なのは、その月の数字だけを見るのではなく、前月、前年同月、計画値と比較することです。

例えば、今月の粗利益率が30%だったとします。30%という数字だけでは、良いのか悪いのか判断できません。

前年同月が35%で、前月も33%だったのであれば、明らかに低下傾向があります。反対に、前年が27%であれば、改善していると考えることができます。

経営数字は、単独では意味を持ちにくいものです。

変化を見ることで初めて意味を持ちます。

毎月同じ数字を見る習慣を持つと、「少しおかしい」という変化に早く気づけるようになります。

■ 預金の推移を見る

経営者が最も身近に確認できる数字の1つが、銀行預金です。

ただし、現在の残高だけを見て安心するのは危険です。

例えば、会社に3,000万円の預金があったとしても、6か月前には5,000万円あったのであれば、この6か月間で2,000万円の資金が減っています。

その減少理由を説明できるかどうかが重要です。

設備投資や納税など、一時的な支出によって減ったのであれば問題ありません。しかし、特別な支出がないにもかかわらず毎月少しずつ預金が減っているのであれば、本業が十分な資金を生み出していない可能性があります。

経営者は、預金残高を点ではなく線で見る必要があります。

月末時点の預金残高を1年程度並べるだけでも、会社の資金が増えているのか、横ばいなのか、減っているのかが分かります。

さらに重要なのは、数か月先まで予測することです。

給与、仕入代金、外注費、借入金返済、税金、賞与など、予定されている支出と入金予定を確認すれば、ある程度先の資金状況は見通せます。

資金繰りが苦しくなったときに初めて預金を見るのでは遅いのです。

まだ十分な資金があるうちから、その減少速度を見ることが重要です。

■ 粗利の変化を見る

売上高と同じくらい、あるいは業績悪化の初期にはそれ以上に注意したいのが粗利益です。

売上がほとんど変わっていない会社でも、粗利益率が低下すれば利益は急速に悪化します。

原材料や仕入価格が上昇しているにもかかわらず販売価格を変えていない、受注を確保するために値引きが増えている、低採算案件の割合が増えている、外注単価が上昇しているといった変化は、まず粗利益率に現れます。

売上だけを確認していると、この変化を見逃します。

特に中小企業では、「仕事はあるから大丈夫」という感覚が危険です。

現場が忙しく、売上高も前年並みであれば、経営者は業績悪化を実感しにくくなります。しかし、その仕事から残る利益が以前より減っていれば、会社の体力は確実に低下しています。

毎月、売上高と粗利益額、粗利益率をセットで見る。

そして粗利益率が低下したときには、単に「今月は悪かった」で終わらせず、何が原因だったのかを確認します。

小さな粗利益率の低下を放置しないことが、大きな赤字を防ぐことにつながります。

■ 顧客の変化を見る

業績悪化の兆候は、決算書より先に顧客との関係に現れることがあります。

これまで毎月一定量を発注していた顧客からの仕事が少しずつ減っている。問い合わせの頻度が落ちている。競合他社との相見積りが増えている。価格への要求が以前より厳しくなっている。

こうした変化は、売上が大きく減少する前の段階で起こることがあります。

特に主要顧客への依存度が高い会社では、顧客の小さな変化が数か月後の業績に大きく影響します。

そのため、売上実績だけでなく、受注量や問い合わせ件数、見積提出件数、失注理由なども確認する必要があります。

重要なのは、営業担当者の感覚だけに任せないことです。

「特に問題ありません」という報告を受けていても、数字を見ると前年より発注量が15%減っている場合があります。

逆に、売上はまだ減っていなくても、見積依頼や新規案件の相談が減っていれば、数か月先の売上減少を予測できるかもしれません。

売上は結果です。

その前段階にある顧客行動を見ることで、業績悪化をより早く察知できます。

■ 売掛金を確認する

売上が順調でも、売掛金の増加には注意が必要です。

売掛金が増える理由が売上増加によるものであれば、一定程度は正常です。しかし、売上がほとんど変わっていないのに売掛金だけが増えている場合、回収が遅くなっている可能性があります。

特定の取引先からの入金が遅れている、請求処理そのものが遅れている、長期間回収できていない債権が残っているといった状態です。

このような変化は、取引先側の業績悪化を示している場合もあります。

以前は期日どおり入金されていた顧客から、少しずつ入金が遅れるようになった。支払日の変更を求められた。分割払いの相談があった。

こうした兆候は、単なる経理処理上の問題として扱うべきではありません。

取引先の信用状態が変化している可能性があります。

経営者がすべての売掛金を毎月1件ずつ確認する必要はありませんが、残高の大きい顧客や入金遅延が発生した顧客については把握しておくべきです。

自社の業績だけでなく、取引先の変化にも注意することが、資金繰りを守ることにつながります。

■ 労働時間を見る

業績悪化の兆候は、人件費や労働時間にも現れます。

売上が減っているにもかかわらず残業時間が増えているのであれば、仕事の進め方に問題がある可能性があります。

業務量そのものは減っているはずなのに労働時間が減っていない場合、組織が現在の事業規模に合わなくなっているかもしれません。

反対に、売上が増えているのに労働時間がほとんど増えていなければ、生産性が向上している可能性があります。

労働時間は、単なる労務管理の数字ではありません。

会社が持っている人材という経営資源を、どの程度使って売上や利益を生み出しているのかを見るための数字でもあります。

特に注意したいのは、部門ごとの偏りです。

一部の部署だけ残業が続いている、特定の社員に仕事が集中している、管理職が大量の実務を抱えているという状態は、将来の人件費増加や離職につながる可能性があります。

人が辞めてから問題に気づくのでは遅いのです。

勤怠データは毎月必ず作られる会社が多いため、新しい仕組みを導入しなくても確認できます。

売上や粗利益と労働時間を一緒に見ることで、会社の生産性の変化を早く捉えることができます。

■ 現場の違和感を拾う

数字は重要ですが、数字だけですべての兆候を捉えられるわけではありません。

むしろ、数字に表れる前に現場で小さな変化が起きていることがあります。

以前より顧客からの問い合わせが少なくなった。

特定の商品について値段を聞かれることが増えた。

仕入先から納期や価格条件の変更を求められるようになった。

社員から「この仕事は最近手間がかかる」という話が増えている。

こうした情報は、会計データにはすぐには現れません。

しかし、数か月後には売上、原価、人件費、利益といった数字に表れてくる可能性があります。

経営者が現場から離れすぎると、この変化を拾えなくなります。

だからといって、すべての業務に経営者が口を出す必要はありません。

重要なのは、定期的に管理職や担当者と話し、「最近何か変わったことはないか」と確認することです。

その際、「問題はないか」と聞くだけでは、「特にありません」で終わることがあります。

最近増えている仕事は何か、減っている仕事は何か、顧客からの要求に変化はないか、時間がかかるようになった業務はないか、と具体的に聞く方が実態を把握しやすくなります。

数字と現場の感覚を組み合わせることが、早期発見には必要です。

■ 予実差を放置しない

経営計画や予算を作っている会社では、計画と実績の差を毎月確認する習慣を持つべきです。

売上が計画より10%下回ったのであれば、その理由を確認します。単なる季節変動なのか、主要顧客からの発注減少なのか、新規営業が想定どおり進んでいないのかによって、対応は変わります。

粗利益が予算を下回っている場合も同じです。

仕入価格の上昇なのか、値引きの増加なのか、低採算案件が増えているのかを確認する必要があります。

ここで重要なのは、計画どおりにならなかったことを問題にすることではありません。

経営計画は、未来を正確に予測するために作るものではないからです。

実績との差が出たときに、その理由を考えるための基準として使います。

特に業績悪化の初期では、小さな予実差を「来月取り戻せばいい」と放置してしまいがちです。

1か月の未達なら問題にならなくても、それが2か月、3か月と続けば、当初の前提そのものが崩れている可能性があります。

計画と実績の差を毎月確認し、差が続くなら早い段階で計画を修正する習慣が、業績悪化を深刻化させないためには重要です。

また、経営数字を確認する習慣を作るためには、「時間があるときに見る」という運用をやめることも重要です。

経営者には日々さまざまな仕事があります。顧客対応、営業、社員との面談、金融機関とのやり取りなどに追われていると、経営数字の確認は後回しになります。

だからこそ、毎月決まった日を経営確認の日として設定する方法が有効です。

例えば、毎月10日までに前月の試算表を完成させ、その週に売上、粗利益、固定費、営業利益、資金繰り、主要顧客の動向を確認する。

経営者1人で見るだけでも構いませんし、幹部や経理担当者と定例会議を行ってもよいでしょう。

重要なのは、特別な問題がなくても実施することです。

業績が悪いときだけ数字を見る会社では、数字は「問題が起きたときに見るもの」になります。

毎月確認することが当たり前になれば、数字は日常の経営判断に使うものへ変わります。

経営管理を仕組みにするということは、複雑なシステムを導入することではありません。

いつ、誰が、何を見るのかを決め、それを続けることです。

■ 畔の見方

業績悪化の早期発見のために、私は経営者へ大量の管理資料を作ることを勧めているわけではありません。
中小企業では、経営者自身が営業や顧客対応を担っていることも多く、毎月数十種類もの指標を確認することは現実的ではありません。
むしろ重要なのは、その会社にとって必要な数字を絞ることです。
全社の売上、粗利益、固定費、営業利益、預金残高といった基本的な数字に加え、会社の特徴や時々の課題に応じて主要顧客の売上推移、顧客別採算、売掛金、在庫、労働時間などを確認します。
そして、数字に変化があれば、その原因を現場まで掘り下げます。
粗利益率が下がっていれば、どの顧客や案件で下がったのかを確認します。残業時間が増えていれば、どの部署で、どの仕事に時間を使っているのかを確認します。預金残高が減っていれば、赤字なのか、売掛金や在庫が増えているのか、借入金返済が重いのかを切り分けます。
数字を集めること自体が目的ではありません。
経営者が変化に気づき、原因を考え、次の行動を決められる状態を作ることが目的です。
最低でも毎月1回、この確認を続ける。
それだけでも、業績が大きく悪化してから初めて気づく可能性は大きく下げることができます。

会社の危機は、決算書に突然現れるものではありません。
その前に、さまざまなところで小さな変化が起きています。
売上の伸びが止まり、粗利益率が少し下がる。主要顧客の発注量が減り、売掛金の回収が遅くなる。残業時間が増え、預金残高が少しずつ減っていく。
それぞれを単独で見れば、まだ経営危機とは言えないでしょう。
だからこそ、見過ごしやすいのです。
しかし、経営者が普段から同じ数字を確認し、顧客や現場の変化にも注意を向けていれば、「以前とは何かが違う」と早い段階で気づくことができます。
経営において、早く気づくことには大きな価値があります。
利益が残っているうちであれば、無理のない形で固定費を見直せます。資金に余裕があれば、新しい売上を作るための投資もできます。顧客との関係が悪化する前なら、価格や取引条件について話し合うこともできます。
経営改善の選択肢は、会社に時間と資金が残っているほど多くなります。
業績悪化を完全に防ぐことはできません。市場環境も顧客も競合も変わり、会社の努力だけでは避けられない売上減少もあります。
しかし、悪化に気づく時期は変えることができます。
そのために必要なのは、特殊な経営手法ではありません。
毎月同じ数字を見ること、前年差や計画との差を確認すること、主要顧客の変化を追うこと、預金や売掛金、労働時間を見ること、そして数字では分からない現場の違和感を拾うことです。
これを特別な仕事ではなく、経営者の日常業務として習慣化する。
業績が悪くなってから経営を見るのではなく、業績が悪くなる前から会社の変化を見続けること。
それが、経営者にできる最も基本的な危機管理なのです。

この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士

谷中 憲

(たになか あきら)

中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

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