数字を見ない会社は、なぜ改善できないのか

業績が悪化した会社の経営者と話をしていると、「数字は経理と税理士先生に任せています」という言葉を聞くことがあります。
もちろん、日々の仕訳や請求、支払処理、決算書の作成まで経営者自身が行う必要はありません。経理実務は担当者や税理士に任せればよいでしょう。
しかし、経理を任せることと、経営数字を見ないことは同じではありません。
会社の売上はいくらなのか。粗利益はいくら残っているのか。固定費はいくらかかっているのか。どの事業や顧客が利益を生んでいるのか。現在の利益水準で借入金を返済できるのか。そして、このまま経営を続けた場合、数か月後の資金はどうなるのか。
これらは経理担当者だけが知っていればよい数字ではありません。経営者が会社の状態を判断するために必要な数字です。
業績が順調なときには、数字を細かく見なくても会社は回ります。多少採算の悪い仕事があっても、他の仕事で吸収できます。固定費が少し増えても、売上が伸びていれば問題になりません。経営判断が多少遅れても、会社に利益と資金の余裕があれば修正できます。
ところが、業績が悪化すると事情が変わります。
利益の余裕が小さくなり、経営判断の間違いや遅れが、そのまま赤字や資金流出につながります。採算の悪い顧客を半年放置すれば、その半年分の損失が積み上がります。固定費の見直しが一年遅れれば、一年分の余分な支出が発生します。
よって、業績が横ばい、あるいは悪化した会社は、絶対に数字を見るようにしなければなりません。
ただし、必要なのは決算書を眺めることではありません。
数字を使って会社の問題を見つけ、改善策を決め、その結果を確認することです。
目次
■ 数字が遅い会社は損をする
経営改善を難しくする原因の一つが、経営数字が出てくるまでの時間です。
月末を過ぎても前月の試算表が完成していない。二か月前の数字を見ながら経営会議を行っている。決算が終わって初めて一年間の利益を知る。このような状態では、業績悪化への対応はどうしても後手になります。
例えば、四月から粗利益率が低下し始めていたとしても、その事実を六月や七月になって初めて知れば、その間も同じ条件で仕事を受注し続けている可能性があります。
顧客別採算が悪化していても、数字が見えなければ価格交渉は始まりません。外注費が想定以上に増加していても、把握するまで契約や発注方法は変わりません。残業代が増えていても、原因分析に着手するのはさらに先になります。
経営数字に求められるのは、正確性だけではありません。
経営判断に間に合うことが重要です。
もちろん、月次決算を早くするために数字の正確性を犠牲にしてよいという意味ではありません。しかし、細部まで完全に確定することを待って経営判断が二か月遅れるのであれば、概算でも早い段階で状況を把握し、その後に精度を高める方が実務的な場合があります。
特に業績悪化局面では、数字の遅れは判断の遅れになり、判断の遅れは損失の拡大につながります。
経営改善では、「正しい数字を見る」だけでなく、「必要な時期に数字を見る」という管理も必要です。
■ 売上だけの危険
経営者が最も把握している数字は、やはり売上高でしょう。
今月はいくら売れたのか、前年同月と比べて増えたのか減ったのか、営業目標に対してどの程度達成しているのか。売上は会社の活動量を示す分かりやすい数字です。
しかし、売上だけで経営状態を判断すると、業績悪化の兆候を見落とします。
売上が前年並みでも、粗利益率が下がれば利益は減ります。売上が増えていても、それ以上に外注費や人件費が増えていれば営業利益は悪化します。さらに、利益が出ていたとしても、売掛金や在庫が増えれば資金は残りません。
それにもかかわらず、社内の管理指標が売上中心になっている会社は少なくありません。
営業担当者には売上目標があり、部門会議でも売上進捗を確認する。経営者も「あと一千万円売れば目標達成」と考える。一方で、その一千万円の売上からいくら粗利益が残るのかは十分に確認されていない。
この状態では、営業担当者は売上を作るために値引きをしてでも受注しようとします。採算の低い案件でも、売上目標には貢献するからです。
結果として、売上目標は達成したのに利益が残らないということが起こります。
売上は重要です。しかし、売上は経営結果の一部にすぎません。
業績改善では、売上高と同時に粗利益額、粗利益率、固定費、営業利益、そして資金の動きを確認する必要があります。
会社が守るべきなのは売上高という数字そのものではなく、事業を継続できる利益と資金だからです。
■ 粗利を分けて見る
会社全体の粗利益を見るだけでも重要ですが、業績改善を進めるためには、さらに数字を分けて見る必要があります。
例えば、会社全体では年間二億円の粗利益が出ていたとしても、その中身を確認すると、一つの事業が一億五千万円を生み、別の事業が五千万円を生んでいるとは限りません。
黒字事業が二億五千万円の利益を生み、別の事業が五千万円を失っている結果として、全社では二億円になっている可能性もあります。
全社数字だけを見ていれば、「二億円の粗利益がある」という事実しか分かりません。しかし事業別に分ければ、会社の利益を作っている場所と、利益を失わせている場所が見えてきます。
部門別、商品別、顧客別に数字を分けても同じです。
どの部門が利益を生んでいるのか。どの商品群の利益率が高いのか。どの顧客との取引が会社に貢献しているのか。
こうした違いを把握することで、初めて経営資源の配分を考えることができます。
利益の出ている事業へ人員や営業力を振り向けるのか。採算の悪い事業を改善するのか。それとも縮小や撤退を考えるのか。
経営改善では、会社全体を一つの数字として見るだけでは足りません。
数字を適切な単位まで分解することで、問題の所在が初めて見えてきます。
■ 顧客別に考える
前回の記事でも触れたとおり、顧客別採算は業績改善において重要な視点です。
売上高の大きい顧客が会社に大きな利益をもたらしているとは限りません。値引きが多く、追加対応や修正が頻発し、営業担当者や管理職が多くの時間を使っていれば、見かけ上の売上ほど利益が残っていない可能性があります。
反対に、売上規模は中程度でも、安定した価格で発注があり、仕事が標準化され、追加対応も少なく、入金条件も良い顧客は、会社に安定した利益と資金を残します。
それでも、多くの会社では顧客管理が売上高中心です。
年間売上一億円の顧客は重要顧客として扱われ、年間一千万円の顧客はそれほど重要視されない。しかし、実際の利益額や対応時間まで含めて比較すると、評価が逆転することがあります。
顧客別採算を見ることは、顧客を切るためではありません。
どの顧客との取引を伸ばすべきなのか、どの顧客について価格や条件を見直すべきなのか、どの取引に会社の人員と時間を優先的に投入するべきなのかを判断するためです。
売上高だけで顧客を評価すると、会社に利益を残さない取引へ貴重な経営資源を使い続けることがあります。
数字を分けて見ることで、初めて顧客戦略と利益改善を結びつけることができます。
■ 人件費を結びつける
人件費についても、総額だけを見るのでは十分ではありません。
年間人件費が二億円であることを知っていても、その二億円がどの事業や顧客、業務に使われているかが分からなければ、人件費の生産性は判断できません。
人件費を経営改善につなげるためには、労働時間と業務を結びつけて見る必要があります。
例えば、二つの部門に同じ人数が配置されていても、一方は高い粗利益を生み、もう一方はほとんど利益を生んでいない場合があります。その違いが市場や商品単価によるものなのか、業務効率によるものなのか、人員配置によるものなのかを確認しなければなりません。
また、特定の顧客に多くの時間を使っている場合、その労働時間も顧客別採算の一部として考える必要があります。
社員が忙しいからといって、人件費が効率的に使われているとは限りません。
長時間働いているのに利益が出ていないのであれば、社員の努力不足ではなく、仕事の価格や業務設計、顧客構成そのものに問題がある可能性があります。
人件費管理とは、単に給与総額を減らすことではありません。
会社が持っている労働時間を、どの仕事へ使えば最も利益につながるのかを考えることです。
数字と人の働き方を結びつけることで、人件費は単なる固定費ではなく、経営資源として見えるようになります。
■ 予算と実績を見る
数字は実績を確認するだけではなく、計画との差を見ることでさらに意味を持ちます。
例えば、今月の営業利益が五百万円だったとします。
この数字だけを見れば、黒字なので悪くないように感じます。
しかし、計画では一千万円の利益を見込んでいたのであれば、五百万円不足しています。逆に、当初は赤字を見込んでいた会社が五百万円の黒字になったのであれば、大きな改善です。
数字の評価には基準が必要です。
前年との比較も一つの基準ですが、経営改善では予算と実績の比較、いわゆる予実管理が重要になります。
売上が計画より足りなかったのか。粗利益率が想定より低かったのか。人件費が予算を超えたのか。外注費が増えたのか。それとも固定費削減が予定どおり進まなかったのか。
差額を分解することで、次に何を修正すべきかが分かります。
ここで重要なのは、予算を作ること自体を目的にしないことです。
年度初めに立派な予算を作っても、その後一度も見なければ経営改善には役立ちません。
予算は未来を当てるためのものではなく、実績との差から会社の変化を発見するための基準です。
毎月、計画と実績を比べ、差が大きければ理由を確認し、必要なら計画や施策を修正する。この繰り返しによって、経営改善は一度きりの計画ではなく、継続的な管理になります。
■ 月次で判断する
中小企業では、経営判断が年次単位になっていることがあります。
決算が終わり、税理士から「今年は赤字でした」と説明を受けて、初めて本格的な対策を考える。
しかし、決算書に示されている数字は、すでに終わった一年間の結果です。
仮に半年前から業績が急速に悪化していたとしても、決算まで待っていれば、その間の損失を止めることはできません。
だからこそ、経営改善では月次管理が必要です。
毎月の売上、粗利益、固定費、営業利益を確認し、必要に応じて事業別や顧客別の動きを見る。さらに資金繰りと結びつけ、数か月先の預金残高まで確認する。
こうした管理を続けていれば、問題を早く発見できます。
粗利益率が二か月連続で低下したのであれば、その時点で原因を調べることができます。特定の部門の外注費が増加しているのであれば、発注方法を見直すことができます。
経営改善で重要なのは、問題が発生しないことではありません。
問題が発生したとき、どれだけ早く気づき、修正できるかです。
そのための基本単位が月次管理です。
■ 数字と現場をつなぐ
数字だけを見れば経営改善ができるわけではありません。
数字は、会社で起きていることを結果として表しています。しかし、なぜその数字になったのかは、現場を見なければ分からないことがあります。
粗利益率が下がったのであれば、値引きが増えたのかもしれません。仕入価格が上がったのかもしれません。現場で修正作業が増えているのかもしれません。
残業代が増えているのであれば、単純に仕事量が増えたのか、特定業務が非効率なのか、退職者の仕事が残った社員へ集中しているのかによって、取るべき対策は変わります。
数字を見て「外注費を10%削減しよう」と決めるだけでは、現場で何が起きるかは分かりません。外注を減らした結果、社員の残業が増えれば、会社全体の利益はほとんど変わらないこともあります。
だからこそ、数字と現場を往復する必要があります。
数字から異常を見つけ、現場で原因を確認する。そして改善策を実行し、再び数字で結果を確認する。
管理会計は、経理部門だけで完結する仕事ではありません。
経営者、管理職、現場が同じ数字を見ながら、会社の仕事の進め方を変えていくための道具です。
■ 改善効果を追う
経営改善では、施策を実行したことよりも、施策によって数字がどう変わったかが重要です。
固定費削減を行った、価格改定を実施した、低採算顧客との条件を見直した、残業削減を進めた。こうした取り組みは、実施した時点ではまだ改善の途中です。
例えば、年間一千万円の固定費削減を計画していても、実際には契約解除が遅れ、初年度の効果が五百万円しか出ないことがあります。
価格改定を行っても、値上げによって取引量が減れば、想定した利益改善にならないかもしれません。
業務効率化によって残業時間が減っても、同時に外注費が増加すれば、会社全体の費用はそれほど減っていない可能性があります。
改善策には、必ず当初の想定と実際の結果との差が生まれます。
だからこそ、改善施策ごとに効果を確認する必要があります。
経営改善とは、計画を作って終わる仕事ではありません。
施策を実行し、結果を数字で確認し、想定と違えば修正する。この管理を続けることで、初めて数字が経営改善の道具になります。
■ 畔の見方
業績が悪化した会社を見るとき、私は最初に大量の指標を作ることはしません。
中小企業の経営者が毎月何十種類もの数字を確認することは、現実的ではないからです。
まず、会社の状態を判断するために本当に必要な数字を選びます。売上高、粗利益、固定費、営業利益、預金残高といった全社数字を確認したうえで、その会社の問題に応じて事業別、顧客別、人件費、労働時間などへ掘り下げます。
重要なのは、数字の種類を増やすことではありません。
経営判断につながる数字を作ることです。
例えば、顧客別売上表がすでにあるなら、そこへ粗利益や取引量の推移を加えるだけで経営判断に使える資料になるかもしれません。勤怠データがあるのであれば、部門別の労働時間と売上や粗利益を比較することで、業務量の偏りが見えることがあります。
既存の会計データや業務データを組み合わせるだけでも、多くの会社では十分な経営情報を作ることができます。
そして、毎月同じ形式で数字を確認します。
前月から何が変わったのか、計画とどこが違うのか、その原因は何か、今月何をするのか。
この流れを繰り返すことで、数字が単なる報告資料から意思決定の道具へ変わります。
畔が考える「見える化」は、きれいなグラフや資料を作ることそのものではありません。
経営者が会社の状態を理解し、次に何をするかを選べる状態を作ることです。
数字を見ない会社では、問題が起きていないわけではありません。
問題が見えていないだけかもしれません。
粗利益率が少しずつ下がっている。特定顧客の採算が悪化している。固定費が現在の売上規模に対して重くなっている。残業時間が特定部署へ偏っている。借入金返済によって預金残高が減り続けている。
こうした変化は、最初から大きな問題として現れるわけではありません。
小さな数字の変化として現れ、それが数か月、数年と積み重なった結果、赤字や資金不足という形で表面化します。
経営者の経験や感覚は重要です。顧客の変化や現場の空気、社員の状態など、数字には表れない情報を判断できるのは経営者だからです。
しかし、感覚だけでは見えないものもあります。
売上が大きい顧客が本当に利益を生んでいるのか、忙しい部署が本当に会社へ利益をもたらしているのか、現在の固定費を維持するためにどの程度の売上が必要なのかといったことは、数字に置き換えなければ判断できません。
大切なのは、数字だけで会社を経営することではありません。
数字と現場の両方を見ることです。
数字から問題の兆候を見つけ、現場で原因を確かめ、改善策を実行し、その結果を再び数字で確認する。この繰り返しによって、経営改善は勘や経験だけに頼ったものではなくなります。
業績が悪化してから数字を見るのでは遅い場合があります。
むしろ業績が悪化し始めたときこそ、数字を見る頻度を上げ、変化を早く捉える必要があります。
会社の数字は、経理や税務のためだけに存在しているのではありません。
数字は、会社のどこに問題があり、限られた時間と資金をどこへ使うべきなのかを経営者が判断するための道具なのです。
この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士
谷中 憲
(たになか あきら)
中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

