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資金繰りが悪くなる会社の初期症状

会社の資金繰りは、ある日突然悪くなるわけではありません。

昨日まで何の問題もなかった会社が、翌日になって急に資金不足へ陥るということは、通常ありません。実際には、その数か月前、場合によっては数年以上前から、さまざまな数字に変化が現れています。

ところが、その変化に気づかないまま経営を続けていると、ある時点で「来月の支払いが厳しい」「賞与資金が足りない」「借入金の返済が重い」といった形で、資金繰りの問題が一気に表面化します。

特に注意したいのは、売上がある程度維持されている会社です。

売上は前年並みで、仕事もそれなりに入っている。社員も忙しく働いており、取引先から大きな問題を指摘されているわけでもない。それにもかかわらず、預金残高だけが少しずつ減っていくことがあります。

経営者からすると、「これだけ仕事があるのに、なぜお金が残らないのか」という感覚になります。

しかし、売上と利益と資金は同じものではありません。

売上があっても利益が出ていなければ資金は増えませんし、利益が出ていても売掛金の回収が遅ければ現金は不足します。

また、設備投資や借入金返済によって、利益以上に資金が流出することもあります。

資金繰りが悪くなったときに重要なのは、資金不足という結果だけを見ることではありません。

その前に何が起きていたのか。

預金残高はどのように変化していたのか。

売掛金は増えていなかったか。

在庫は膨らんでいなかったか。

借入金返済額は現在の利益水準に合っていたか。

支払いと入金の条件はどうなっていたか。

こうした変化を早い段階で捉えることができれば、会社には対策を考える時間があります。

資金繰り管理とは、お金が少なくなってから始めるものではありません。

■ 預金残高

最も分かりやすい兆候は、預金残高の減少です。

当たり前のように聞こえますが、実際には預金残高を長期的な推移で見ていない会社が少なくありません。経営者は日々の銀行残高を確認していても、「3か月前と比べてどうなのか」「半年前からどの程度減ったのか」という見方まではしていないことがあります。

月末には3,000万円あった預金が、翌月には2,700万円、その次の月には2,400万円になっている。単月で見れば支払いのタイミングによる変動にも見えますが、半年間継続して減少しているのであれば、会社の中で何らかの資金流出が続いている可能性があります。

特に危険なのは、「まだ預金があるから大丈夫」と考えてしまうことです。

仮に5,000万円の預金があったとしても、毎月500万円ずつ減少していれば、単純計算では10か月で資金が尽きます。逆に、預金残高が1,000万円しかなくても、毎月安定して資金が増えている会社であれば、状態は大きく異なります。

重要なのは現在の残高だけではなく、その方向です。

増えているのか、横ばいなのか、減っているのか。そして、減っているのであれば、その理由を説明できるのか。

税金や賞与、設備投資など、一時的な支出によって預金が減ったのであれば、その原因は明確です。しかし、特別な支出がないにもかかわらず毎月少しずつ預金が減っている場合には、通常の事業活動そのものが資金を消費している可能性があります。

預金残高は、会社の資金繰りの結果として現れる数字です。

だからこそ、残高そのものだけでなく、月ごとの推移を見ることが重要です。

■ 売掛金

売上が増えているのに資金が増えない会社では、売掛金を確認する必要があります。

売上は、請求した時点で会計上計上されます。しかし、その時点で会社に現金が入っているとは限りません。

翌月末入金、翌々月入金などの取引条件であれば、売上を計上してから実際に現金を受け取るまでに時間差があります。

この時間差が長くなるほど、会社は自分の資金で取引先の支払いを待つことになります。

例えば、売上が1億円増えたとしても、その1億円の入金が2か月後であれば、その間に仕入代金、人件費、外注費などを先に支払う必要があります。売上拡大が順調に見えても、そのために必要な運転資金が増えれば、預金残高はむしろ減少することがあります。

また、売掛金の増加が単純な売上増加によるものとは限りません。

請求が遅れている、取引先の支払いが遅延している、長期間回収できていない債権が残っているといった場合にも、売掛金は増えます。

そのため、売掛金を見る際には残高だけではなく、中身まで確認する必要があります。

どの取引先に対する売掛金なのか、何月分の請求なのか、入金予定日はいつなのか、予定を過ぎているものはないか。この確認を行うことで、「売上としては計上されているが、現金になっていない金額」が見えてきます。

業績悪化企業では、売上確保を優先するあまり、入金条件の悪い仕事を受け入れてしまうことがあります。しかし、利益が出る取引であっても、入金までの期間が長すぎれば資金繰りを圧迫します。

売上を取ることと、現金を回収することは別の管理と考えるべきです。

■ 在庫

商品や材料を扱う会社では、在庫の増加も資金繰り悪化の重要な兆候です。

在庫は、会計上は資産として扱われます。そのため、在庫が増えても、その時点で損失として表面化するわけではありません。

しかし、会社のお金という意味では別です。

商品を仕入れれば、仕入先へ代金を支払います。材料を購入すれば、その時点で現金が出ていきます。それが販売されず倉庫に残っている間、会社の資金は在庫という形で固定されます。

例えば、通常3,000万円程度だった在庫が5,000万円まで増えているのであれば、単純に考えて2,000万円の資金が追加で在庫に使われています。

その2,000万円は、資金として使うことができません。

在庫が増える理由にはさまざまなものがあります。売上増加に備えて仕入れを増やした場合もあれば、販売が想定より進まず商品が残っている場合もあります。取引先から大量発注を見込んで先行仕入れをしたものの、注文が減ってしまうこともあります。

問題なのは、在庫の増加を「資産が増えた」とだけ考えてしまうことです。

実際には、売れなければ現金になりません。長期間保管すれば陳腐化し、値下げや廃棄が必要になることもあります。

在庫については、金額だけでなく回転を見る必要があります。以前より在庫が増えているのに売上が変わっていないのであれば、会社の資金効率は悪化しています。

資金繰りが苦しい会社では、銀行から新しいお金を借りる前に、すでに会社の中で眠っているお金がないかを見ることも重要です。

■ 借入金

借入金は、資金繰りを支える重要な手段です。

業績が悪化した会社にとって、金融機関からの融資は経営を立て直すための時間を確保する役割を持ちます。したがって、「借入金があること」自体を問題視する必要はありません。

問題になるのは、借入金の返済額が会社の収益力に合っていない場合です。

会社が一年間で事業から生み出せる資金より、借入金の年間返済額の方が大きければ、返済するたびに預金が減っていきます。

例えば、税引後利益と減価償却費などを合わせて年間3,000万円程度の資金しか生み出せない会社が、年間5,000万円の元金返済を行っていれば、単純に考えて2,000万円の資金が不足します。

その不足を新たな借入金で補う状態が続けば、借入金は減りません。

金融機関から借りて、既存借入金を返す。

これを繰り返しているうちは資金繰りが回っているように見えますが、会社自身が返済資金を生み出せているわけではありません。

また、短期借入金を設備投資や長期的な赤字補填に使っている場合にも注意が必要です。本来長期間かけて回収すべき支出を短い返済期間の借入金で賄えば、毎月の返済負担が重くなります。

資金繰りを見る際には、借入金残高だけでなく、年間の元金返済額を確認する必要があります。

現在の利益水準で、その返済を継続できるのか。

ここに無理があるのであれば、利益改善だけでなく、将来的には返済条件そのものを見直さなければならない必要性が生じる場合もあります。

こうなると、かなり大変です。

■ 支払条件

資金繰りは、利益の大きさだけでなく、入金と支払いのタイミングによって大きく変わります。

例えば、顧客からの入金が売上から60日後なのに、仕入先や外注先への支払いが30日後であれば、その差の30日間は会社が資金を負担します。

取引量が小さい間は、それほど大きな問題にならないかもしれません。しかし売上が増えると、必要な運転資金も増加します。

特に急成長している会社では、黒字であるにもかかわらず資金不足になることがあります。

売上が増える。仕入れや外注も増える。給与も先に支払う。しかし、顧客からの入金は数か月先になる。その結果、帳簿上は利益が出ているのに、現預金残高は減少します。

反対に、顧客から前受金を受け取れる事業や、入金が早く支払いが遅い事業では、売上が増えるほど資金繰りが楽になる場合があります。

だからこそ、業績を見る際には利益率だけでなく、取引条件も重要です。

長年続いている条件であっても、現在の資金繰りに対して負担が大きいのであれば、見直しを検討する必要があります。入金サイトを短くできないか、着手金や中間金を設定できないか、仕入先との支払条件を調整できないかといった方法があります。

数%の値上げと同じように、入金条件を改善することも経営改善です。

利益を増やすだけでなく、利益を早く現金に変えることも重要だからです。

■ 利益とのズレ

「黒字なのにお金がない」という状態は、決して珍しくありません。

損益計算書に利益が出ているからといって、その利益と同じ金額だけ預金が増えるわけではないからです。

売掛金が増えれば、利益は計上されても現金は入ってきません。在庫が増えれば、現金は商品や材料へ変わります。設備を購入すれば、多額の現金が一度に出ていきます。借入金の元金返済も、損益計算書上の費用にはなりませんが、預金残高は確実に減少します。

そのため、損益計算書だけを見て資金繰りを判断することはできません。

一方で、赤字なのに預金が増えている会社もあります。

銀行から新たな融資を受ければ、一時的に預金残高は増えます。不動産や設備を売却しても資金は増えます。

しかし、それは本業が資金を生んでいることを意味しません。

この違いを理解しないと、借入によって預金が増えたことで「少し余裕ができた」と安心し、その間に本業の赤字構造が放置されてしまうことがあります。

資金繰りを見る際には、「今いくらお金があるか」だけではなく、「そのお金はどこから生まれたのか」を確認する必要があります。

本業から生まれた資金なのか、借入金なのか、資産売却によるものなのか。

会社が継続的に生き残るためには、本業から資金を生み出せる状態を継続しなければなりません。

■ 月次で見る

資金繰りが悪化してから慌てないためには、毎月の管理が必要です。

毎日の銀行残高だけを細かく確認するという意味ではありません。経営者が見るべきなのは、数か月先まで含めた資金の流れです。

今月末の預金はいくらになるのか。翌月には売掛金がいくら入金されるのか。その間に給与、仕入代金、借入金返済、税金などの支払いがいくらあるのか。さらに賞与や納税、設備投資などの大きな支出がいつ予定されているのか。

これらを資金繰り表に落とし込みます。

資金繰り表を作る目的は、将来の預金残高を一円単位で正確に当てることではありません。

「このまま行けば、いつ頃資金が厳しくなるのか」を早く知ることです。

例えば、6か月後に1,000万円不足する可能性があると分かれば、その間にさまざまな対応ができます。売掛金の回収を早める、支払い条件を調整する、不要な支出を止める、設備投資を延期する、金融機関へ早めに相談するなど、選択肢があります。

しかし、支払日の数日前になって資金不足が判明すれば、取れる手段は一気に少なくなります。

資金繰りでは、時間そのものが経営資源です。

早く気づけば、経営者には選択肢があります。

■ 銀行との関係

資金繰りが悪化すると、最終的に金融機関への相談が必要になることがあります。

このとき重要なのは、資金がなくなる寸前になってから相談しないことです。

「来週の支払いに必要なので、急いで融資してほしい」と相談されても、金融機関側にも審査や手続きがあります。決算内容が悪化していれば、なおさら時間が必要になります。

一方、数か月先の資金不足を予測したうえで相談すれば、対応の余地は広がります。

なぜ資金が不足するのか、どの程度必要なのか、その資金を使って何を改善するのか、改善後にどの程度の利益を確保できるのか。

こうした説明を準備することもできます。

金融機関が見ているのは、単に現在の預金残高ではありません。

会社が自社の経営状態を把握しているか、悪化の原因を理解しているか、改善策を持っているか、その計画が数字に落とされているかといった点も重要になります。

資金繰り表は、社内管理のためだけに作るものではありません。

金融機関と会社の状況を共有する際にも、非常に重要な資料になります。

■ 畔の見方

資金繰りが苦しいというご相談を受けた場合、畔は最初に、なぜ資金が減っているのかを確認します。
本業が赤字なのか、売掛金の増加によって資金が寝ているのか、在庫が増えているのか、大きな設備投資があったのか、借入金返済が現在の収益力に対して重すぎるのか。原因によって、取るべき対策はまったく変わります。
本業の赤字が原因であれば、追加融資だけでは問題は解決しません。資金を借りても、赤字構造が続けば再び資金不足になります。
売掛金や在庫の増加が原因であれば、運転資金管理の改善が必要です。借入金返済が過大なのであれば、金融機関との返済条件の調整を検討することもあります。
そのうえで、月次の損益計画と資金繰り計画をつなげます。
売上がいくらになれば、粗利益はいくら残るのか。固定費をどこまで下げるのか。その結果、毎月どの程度の資金を生み出せるのか。借入金をどの程度返済できるのか。
経営改善では、損益だけを黒字にすれば終わりではありません。
利益が実際の資金として残り、借入金を返済しながら会社を維持できる状態まで持っていく必要があります。
だからこそ、管理会計と資金繰りは別々に考えるのではなく、一つの経営管理として見る必要があります。

資金繰りが悪くなる会社には、その前から兆候があります。
預金残高が少しずつ減っている。売掛金が売上以上のペースで増えている。在庫が以前より膨らんでいる。利益に対して借入金返済が重い。入金より支払いが先行している。
どれも、単独では直ちに危機を意味するものではありません。
しかし、こうした変化がいくつも重なり、それが数か月続いているのであれば、会社の中で資金が生まれにくくなっている可能性があります。
最も危険なのは、預金が完全になくなることではありません。
その兆候に気づかず、対策を考える時間を失うことです。
資金に余裕があるうちは、経営者には選択肢があります。経費を見直すこともできますし、取引条件を変更することもできます。金融機関へ相談することもできますし、事業や顧客の整理を時間をかけて進めることもできます。
しかし、資金が尽きる直前になると、選択肢は急速に減ります。
条件の悪い融資でも受けざるを得なくなるかもしれません。

必要な設備投資を止めたり、採算の良い事業まで縮小したりしなければならない場合もあります。
だからこそ、資金繰りは「困ったときに見るもの」ではありません。
毎月の経営管理の中で、預金残高、売掛金、在庫、借入金、入出金の条件を確認し、数か月先の資金まで予測する。その小さな積み重ねによって、会社は危機に備えることができます。
資金繰りとは、今日の支払いができるかどうかを確認する作業ではありません。
会社に残された時間を把握し、その時間があるうちに次の手を打つための経営管理なのです。

この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士

谷中 憲

(たになか あきら)

中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

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