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経営・人事労務・広報コラム

  • 経営

固定費はどこから見直すべきか

業績が悪化すると、経営者は経費削減を考えます。

  • 広告費を減らす
  • 出張を控える
  • 備品購入を制限する
  • 残業を減らす
  • 利用していないサービスを解約する

こうした取り組みは、もちろん無駄ではありません。

しかし、会社の赤字額が年間数千万円に及んでいるのに、月数万円の経費を一つずつ削っているだけでは、業績はなかなか改善しません。

経営改善で重要なのは、

「削りやすい費用から削る」のではなく、「改善効果の大きい費用から見る」ことです。

その中心になるのが、固定費です。

固定費とは、売上が増えても減っても、一定程度発生し続ける費用です。

  • 人件費
  • 事務所や店舗の賃料
  • 役員報酬
  • リース料
  • システム利用料
  • 保守契約
  • 顧問料
  • 借入金に伴う支払利息

会社によって内容は異なりますが、一度発生すると毎月継続するという共通点があります。

業績が良いときには、それほど問題になりません。

売上が増え、十分な粗利益が出ていれば、固定費を吸収できるからです。

しかし、売上が減少すると状況が変わります。

売上は二割減った。粗利益も減った。
ところが、人件費や賃料はほとんど変わらない。

すると、それまで利益を出していた会社が急速に赤字になります。

業績悪化企業では、売上の回復策と同時に、

「現在の売上規模に対して、固定費が重すぎないか」

を確認する必要があります。

ただし、固定費削減には難しさもあります。

固定費の中には、会社を運営するために必要な費用が多く含まれているからです。

何でも削ればよいわけではありません。

それを見分けながら、会社の収益構造そのものを組み直していく必要があります。

■ まず金額を見る

固定費を見直すとき、最初に行うことは非常に単純です。

金額の大きいものから並べます。

業績が悪化すると、会社ではさまざまな経費削減案が出てきます。

コピー代を減らそう。
新聞を解約しよう。
ウォーターサーバーをやめよう。
出張時の宿泊費を抑えよう。

もちろん、不要な支出なら見直すべきです。

しかし、年間三千万円の赤字が出ている会社で、年間十万円の経費を削っても、経営改善への影響は限定的です。

一方、人件費が年間二億円ある会社であれば、五%の改善でも一千万円です。

年間二千万円の外注費を一〇%改善できれば、二百万円になります。

月額百万円の賃料を二〇万円下げることができれば、年間二百四十万円です。

経営改善では、この金額感覚が非常に重要です。

削減できるかどうかは、次の問題です。

まず、「会社は何に、年間いくら使っているのか」を把握する。

そのうえで、金額が大きい項目から検討します。

経費削減というと、一円単位の節約を積み重ねるイメージがあります。

しかし、業績改善では違います。

大きな構造を見る。

これが最初です。

■ 固定費率を見る

固定費は、金額だけではなく売上との関係で見る必要があります。

例えば、年間固定費が三億円の会社があるとします。

売上十億円であれば、固定費率は三〇%です。

その会社の粗利益率が四〇%なら、粗利益は四億円あります。

そこから固定費三億円を支払えば、一億円程度の利益が残ります。

ところが、売上が八億円まで減った場合はどうでしょうか。

粗利益率が同じ四〇%なら、粗利益は三億二千万円です。

固定費が三億円のままであれば、ほとんど利益が残りません。

さらに売上が七億円になれば、粗利益は二億八千万円です。

固定費を回収できず、赤字になります。

このように、固定費は売上が一定水準を下回った瞬間に大きな負担になります。

これが損益分岐点の考え方です。

会社には、「これだけ売らなければ固定費を回収できない」という売上水準があります。

業績改善では、この水準を把握することが重要です。

売上を増やして損益分岐点を超えるのか。

それとも、固定費を下げて損益分岐点そのものを下げるのか。

多くの場合、この二つを同時に考えます。

売上回復だけに頼ると、改善まで時間がかかります。

固定費を適正化すれば、必要な売上水準を下げることができます。

つまり固定費削減には、「今年の利益を改善する」だけではなく、

「今後、会社が黒字になるために必要な売上を下げる」

という効果があります。

■ 人件費を見る

中小企業の固定費で、最も大きな割合を占めることが多いのが人件費です。

そのため、業績が大きく悪化すると、人件費を無視して固定費改善を行うことは難しくなります。

ただし、ここで注意が必要です。

人件費を見直すことと、すぐに人員削減をすることは同じではありません。

まず見るべきなのは、仕事です。

現在の売上規模に対して、どれだけの業務があるのか。

誰が何をしているのか。
部署ごとの業務量に差はないか。
残業が特定の社員に偏っていないか。
管理職が実務を抱えすぎていないか。
同じ業務を複数部署で行っていないか。
外注している仕事を社内でも行っていないか。

こうしたことを確認します。

例えば、売上が三割減っているにもかかわらず、人員配置が売上減少前と同じであれば、業務量との不整合が発生している可能性があります。

一方で、単純に人数だけを減らすと、必要な業務まで回らなくなることがあります。

残った社員の残業が増え、外注費が増え、品質が落ちる。
顧客対応が遅れ、管理職が現場業務へ戻る。

結果、期待したほど費用が減らないこともあります。

だからこそ、人件費改善では、「人を見る前に、仕事を見る」という順番が重要です。

不要な業務をやめ、重複業務を統合する。

業務量に合わせて配置を変える。

そのうえで、必要な人員体制を考える。

人件費は金額が大きい分、慎重に扱う必要があります。

■ 役員費用を見る

中小企業では、役員関連費用も固定費の大きな項目になることがあります。

役員報酬や役員車両、社宅、役員保険、交際費、その他役員に関連する支出。

業績が悪化したとき、従業員の経費だけを厳しく管理しながら、役員関連費用が以前のまま残っていると、社内の納得感を失います。

社員には残業削減を求め、備品購入を制限し、賞与を減らす。

一方で、経営側の費用はほとんど変わらない。

これでは、経営改善への協力を求めても説得力がありません。

もちろん、役員報酬を簡単に変更できない事情もあります。

生活費や借入保証との関係もあります。税務上、変更時期に制約がある場合もあります。

それでも、現在の会社の利益水準に対して適正なのか、経営責任との関係でどう考えるのか。

この検討自体を避けるべきではありません。

特に赤字が長期間続いている場合には、役員関連費用も他の固定費と同じように確認する必要があります。

経営改善は、社員だけに負担を求めて進めるものではありません。

■ 場所を見直す

事務所、店舗、工場、倉庫などの賃料も、大きな固定費です。

不動産に関する費用は、一度契約すると長期間固定されやすいという特徴があります。

会社が成長していた時期に広い事務所へ移転した、従業員が増えることを前提にフロアを借りた、将来の事業拡大を見込んで倉庫を確保した、

等々…

当時としては合理的な判断だったかもしれません。

しかし、その後社員数が減ったり、事業規模が縮小したにも関わらず、同じ面積を使い続けているのであれば、見直す余地があります。

  • 空いているスペースはないか
  • 別拠点を統合できないか
  • 一部解約できないか
  • 移転すればどれだけ費用が減るか

こうしたことを検討します。

ただし、賃料は簡単には削れません。

契約期間があり、原状回復費用や引っ越し費用も必要になります。
また、移転によって社員の通勤や顧客対応に影響することもあります。

だからこそ、目先の賃料だけで判断してはいけません。

例えば、年間三百万円賃料が下がっても、移転費用が一千万円かかれば、回収には数年必要です。

固定費削減では、

「月額いくら下がるか」

だけでなく、

「削減のためにいくら必要か」

も併せて確認する必要があります。

■ 契約を洗う

固定費の中で、比較的見直しやすいのが継続契約です。

  • システム利用料
  • リース契約
  • 保守契約
  • 通信契約
  • 定期購読
  • クラウドサービス
  • 各種会費
  • 顧問契約

これらは一件ずつはそれほど大きくなくても、会社が長く続くほど契約は増えていきます。

導入した当時は必要だった。

担当者が退職した。

事業はすでに終了した。

別のサービスへ切り替えた。

それでも契約だけが残っている。

こうしたケースは珍しくありません。

特に月額課金のサービスは注意が必要です。

月額一万円なら、年間十二万円です。

同じような契約が十件あれば、年間百二十万円になります。

また、利用しているからといって、その契約条件が最適とは限りません。

  • 契約人数が多すぎないか
  • 上位プランが本当に必要か
  • 他の契約と機能が重複していないか
  • 年間契約へ変更できないか
  • 価格交渉できないか

一度、契約一覧を作るだけでも見えるものがあります。

固定費は、見えないまま自動的に支払い続けていることが最も危険です。

■ 外部委託を考える

外注費は、会計上は必ずしも固定費とは限りません。

売上に応じて増減する外注費も多いからです。

しかし、実際には固定的に発生している委託費用もあります。

毎月一定額で委託している業務。

長期間同じ会社へ任せている業務。

業務量が減っても契約額が変わらない外部委託費。

こうしたものは、固定費に近い性質を持ちます。

外部委託については、本当に外に出すべき業務なのか、社内に戻した方が安いのか。

逆に、社内で行っている業務を外注した方がよいのか。

この両方を考える必要があります。

単純に「外注費を削る」と考えると、仕事が社員へ戻ってきます。

その結果、残業が増えれば意味がありません。

反対に、社内で一人の社員がほぼ専任で行っている業務を外部に委託すれば、人員配置を変えられる可能性もあります。

重要なのは、外注費だけを見ることではありません。

その仕事を社内で行った場合と、外で行った場合の総コストを比べることです。

金額だけでなく、品質、専門性、繁閑差、リスクも含めて判断します。

■ 削減時期を見る

固定費削減では、効果額と同じくらい実施時期が重要です。

年間六百万円削減できる施策があったとしても、実行できるのが一年後なら、現在の資金繰りには間に合わないかもしれません。

一方、年間二百万円の削減でも、翌月から実施できるなら短期的には重要です。

そのため、固定費改善策は時間軸で分けます。

すぐ実施できるもの。

数か月かかるもの。

契約更新まで待つもの。

一年以上かけて構造を変えるもの。

例えば、不要なクラウドサービスの解約はすぐにできるかもしれません。

一方、事務所移転には数か月必要です。

人員体制の変更は、さらに慎重な準備が必要になります。

大きな削減案だけを検討して、その実行を待っている間に赤字が続けば、資金は減り続けます。

だからこそ、

短期施策でまず資金流出を抑えながら、中期施策で固定費構造そのものを変える。

この組み合わせが必要です。

経営改善では、効果額だけではなく、

「いつから数字に効くのか」

まで見なければなりません。

■ 削ってはいけないもの

固定費削減で最も難しいのは、削らない判断です。

業績が悪いと、すべての支出が無駄に見えてきます。

しかし、会社の回復に必要な機能まで削れば、再建できなくなります。

営業活動を止めれば、将来の売上が減ります。

人材育成を完全に止めれば、社員が育ちません。

設備保守を減らしすぎれば、故障や事故のリスクが高まります。

管理業務を削りすぎれば、数字が見えなくなります。

特に注意したいのが、管理部門です。

直接売上を生まないため、削減対象になりやすい。

しかし、業績が悪化している会社ほど、本来は管理機能が必要です。

月次の数字を早く出す。

資金繰りを確認する。

顧客別採算を見る。

人件費を管理する。

契約を整理する。

改善策の進捗を確認する。

こうした仕事がなければ、経営改善は進みません。

業績悪化局面では、「売上を生まない仕事だから不要」という判断をしないことです。

その費用が、会社を立て直すために必要なのかどうかで判断する必要があります。

■ 効果を積み上げる

固定費削減は、一つの大きな施策だけで完成するとは限りません。

少額な削減でも、一件ずつ改善していきます。

そして、その効果を積み上げます。

例えば、

システム契約の整理で月10万円。

事務所関連費用で月20万円。

外注契約の見直しで月30万円。

残業削減で月20万円。

その他契約の見直しで月10万円。

合計すると月90万円です。

年間では1,080万円になります。

業績改善では、この積み上げが重要です。

一方で、決めただけで削減したつもりになってはいけません。

いつから減るのか。

本当に請求額が下がったのか、別の費用が増えていないかを、毎月確認する必要があります。

固定費改善表を作り、

  • 改善項目
  • 従来額
  • 改善後額
  • 月額効果
  • 年間効果
  • 実施時期
  • 担当者

を管理する。

経営改善は、「取り組んでいます」では足りません。

最終的には、試算表や資金繰り表の数字に表れて初めて改善したと言えます。

■ 畔の見方

業績が悪化している会社の固定費を見るとき、私は最初から「何を削りましょうか」とは考えません。

まず、会社の収益構造を確認します。

現在の売上高はいくらなのか。
粗利益はいくら残っているのか。
毎月いくらの固定費が必要なのか。
現在の損益分岐点はいくらなのか。
今後、現実的にどの程度の売上を確保できるのか。

ここを整理します。

例えば、会社が黒字になるために年間15億円の売上が必要なのに、今後の現実的な売上見込みが12億円しかない。

この場合、「営業を頑張って十五億円に戻しましょう」だけでは、経営改善計画としては弱いと考えます。

もちろん売上回復策は必要です。

しかし同時に、

「12億円、あるいは13億円でも利益が出る会社にできないか」を考える必要があります。

そのために固定費を見ます。

ただし、単純に金額だけを削るのではありません。

その費用を削ったとき、何が起きるのかまで考えます。

社員が減った場合、仕事はどう変えるのか。

外注を減らした場合、誰がその仕事をするのか。

事務所を縮小した場合、業務への影響はどうなるのか。

管理費を減らした場合、経営管理機能は維持できるのか。

固定費削減と業務・組織の見直しを一緒に考える。

ここが重要です。

固定費は、会社が成長すると自然に増えていきます。

社員を採用する

事務所を広げる

設備を増やす

システムを導入する

管理職を置く

外部専門家と契約する

その時々では、必要な判断だったのでしょう。

問題は、会社の状況が変わった後です。

売上が減った

事業を縮小した

社員数が変わった

顧客構成が変わった

仕事のやり方も変わった

それでも固定費だけが以前のまま残っていないでしょうか。

固定費は、自動的には適正化されません。

経営者が意識して見直さなければ、過去の会社を前提とした費用が残り続けます。

業績が悪化した会社で必要なのは、ただ経費を切り詰めることではありません。

現在の売上規模で利益が出る会社へ、固定費構造を組み直すことです。

まず金額の大きい項目を見る。

売上との関係を見る。

損益分岐点を見る。

人件費は仕事と一緒に考える。

契約を洗い出す。

実施時期を見る。

そして、会社の回復に必要な機能は残す。

固定費削減は、我慢比べではありません。

会社を縮ませること自体が目的でもありません。

会社が生き残り、再び前へ進むために必要な利益を取り戻す作業です。

売上を増やさなければ、会社は成長しません。

しかし、固定費が重すぎれば、売上を増やしても利益は残りません。

どれだけ売れば黒字になる会社なのか。

その売上は、本当に実現可能なのか。

もし難しいのであれば、どこまで固定費を変える必要があるのか。

業績が悪化したときこそ、この問いから逃げないことです。

固定費を見直すとは、単に支出を減らすことではありません。

今の会社に合った大きさへ、経営の構造を作り直すことなのです。

この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士

谷中 憲

(たになか あきら)

中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

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