赤字になる会社は、3か月先を見ていない

会社の業績管理というと、多くの場合は「先月どうだったか」を確認するところから始まります。
売上はいくらだったのか、粗利益率はどうだったのか、固定費は予算内だったのか、営業利益はいくら残ったのか。こうした月次確認は当然必要です。
しかし、予防的な経営管理という観点では、それだけでは十分ではありません。
なぜなら、先月の数字はすでに終わった結果だからです。
売上が計画を下回ったことが分かっても、その月に戻って営業活動をやり直すことはできません。粗利益率が悪化したことに気づいても、すでに受注し納品した案件の価格を後から変更することはできません。
過去の数字を見る目的は、反省することではありません。
その結果を使って、これから先の見通しを修正することです。
例えば、今月の売上が計画より10%少なかったとします。
その差が一時的なものであれば、翌月以降に回復するかもしれません。しかし、主要顧客からの受注そのものが減っているのであれば、3か月後、6か月後の売上計画も見直す必要があります。
逆に、原材料価格や人件費が想定以上に上昇しているのであれば、売上計画が達成できても利益計画は下方修正しなければならないかもしれません。
年度初めに作った計画を1年間そのまま使い続けるのではなく、新しい情報が入るたびに先の数字を更新する。
これが、経営状態が悪くなる前に行うべき管理の1つです。
目次
■ 予算だけでは足りない
多くの会社では、年度初めに売上予算や利益計画を作ります。
年間売上はいくらを目指すのか、営業利益はいくら確保するのか、そのためにどの程度の経費を使うのかを決めます。
計画を持つことは重要です。
しかし、1年前に作った計画が、その後も正しいとは限りません。
市場環境や顧客の発注状況も変わりますし、仕入価格や人件費、金利などの条件も変化します。
例えば、4月に年間売上6億円を計画していた会社があるとします。
ところが、6月頃から主要顧客の発注量が減り始め、7月、8月も回復しなかった。その状況でも「年間6億円計画」をそのまま使い続けていると、計画と実態の差は毎月広がります。
形式上は予算管理をしていても、現実には存在しない数字を基準に経営している状態になります。
計画は固定して守るものではありません。
経営判断に使うために、現実に合わせて更新するものです。
■ 先行きを毎月更新する
予防的な経営管理では、毎月決算が終わった段階で、先の見通しも更新します。
例えば、今後3か月から6か月程度の売上、粗利益、固定費、営業利益、資金残高を見直します。
重要なのは、精密な予測を作ることではありません。
現時点で分かっている情報を使って、「このまま進めばどうなるか」を確認することです。
今後の売上については、すでに受注している案件、受注確度の高い商談、主要顧客の発注予定などから見通しを作れます。
原価については、仕入先から通知されている値上げや、外注単価の変更などを織り込みます。
人件費についても、採用予定や昇給、賞与などが分かっていれば反映できます。
毎月この作業を繰り返すと、経営者は「現在の会社」だけではなく、「数か月後の会社」を見ることができるようになります。
経営管理の目的は、未来を当てることではありません。
未来が悪くなりそうだと分かったときに、早く行動することです。
■ 売上前提を問い直す
将来見通しを作る際に、最も注意したいのが売上計画です。
売上計画は希望的になりやすいからです。
今月は少なかったが来月は戻るだろう、新規営業が進めば取り戻せるだろう、大型案件が取れれば年間計画には届くだろう、と考えたくなります。
もちろん、実際に回復することもあります。
しかし、経営管理で必要なのは「回復してほしい」という期待ではなく、「何が起きれば回復するのか」という前提です。
例えば、3か月後の売上を5,000万円と見込むのであれば、すでに確定している受注はいくらなのか、商談中の案件はいくらあるのか、そのうち何%程度を受注できる見込みなのかを確認します。
売上予測の根拠を分解すると、期待と現実を区別しやすくなります。
予防的な経営管理では、楽観的な数字を置くより、多少厳しい前提で会社が耐えられるかを見る方が重要です。
■ 3つのケースを想定する
将来見通しは、1本だけでは足りません。
業績が不安定な時期には複数のシナリオを考えた方が有効です。
例えば、売上が計画どおり推移するケース、計画より10%下回るケース、さらに20%下回るケースを作ります。
それぞれの場合に、営業利益がいくらになるのか、預金残高がどこまで減るのかを確認します。
売上が10%減っても十分な利益が出るのであれば、会社には一定の耐久力があります。
一方、5%売上が減っただけで赤字になり、預金も急速に減るのであれば、経営構造そのものに余裕がありません。
この場合、実際に売上が減ってから対策を考えるのではなく、固定費や価格、顧客構成を平時から見直す必要があります。
シナリオを作る目的は、悲観的になることではありません。
会社がどこまで悪化に耐えられるのかを把握することです。
■ 資金までつなげる
将来の損益見通しを作るのであれば、資金繰りまでつなげる必要があります。
営業利益が黒字だからといって、預金残高が増えるとは限りません。
売掛金の入金が遅い、設備投資を予定している、借入金返済が大きい、賞与や納税があるといった場合には、利益が出ていても資金は減ります。
逆に、赤字であっても新規借入によって一時的に預金が増えることがあります。
だからこそ、損益と資金を別々に考えないことが重要です。
例えば、今後3か月は営業利益がほぼゼロでも、その間に借入金返済が毎月500万円あるのであれば、3か月で1,500万円の資金が流出します。
手元預金が2,000万円しかなければ、問題はかなり具体的になります。
損益計画だけでは「少し厳しい」で終わる話が、資金繰りまで見ることで「何月までに何をしなければならないか」という経営課題に変わります。
将来見通しを作る最大の意味は、行動する時期を早められることです。
例えば、このまま進むと4か月後に資金不足になると分かったとします。
4か月あれば、まだ取れる対策があります。
不要な投資を延期し、固定費を見直すことができます。価格交渉を始めることもできますし、売掛金の回収条件を見直すこともできます。
必要であれば、金融機関にも早めに相談できます。
一方、資金不足が2週間後に迫ってから同じ事実に気づけば、使える手段は大幅に減ります。
経営改善では、同じ問題でも気づいた時期によって対応コストが変わります。
だからこそ、将来予測は「いつ危険になるのか」を知るために使います。
■ 基準線を決めておく
将来見通しを見るだけではなく、「どこまで悪化したら何をするか」を事前に考えておくことも有効です。
例えば、粗利益率が一定水準を下回った場合には価格改定を検討する、主要顧客の売上が前年同期比で一定以上減った場合には営業施策を見直す、預金残高が一定水準を下回る見込みになった場合には金融機関へ相談するといった基準です。
数字そのものは会社によって異なります。
重要なのは、悪化してから考え始めないことです。
経営状態が悪くなると、経営者には「もう少し待てば戻るかもしれない」という心理が働きます。
その結果、判断が遅れることがあります。
平時に基準を決めておけば、感情だけで判断を先送りしにくくなります。
予防的な経営管理とは、問題が起きたときの行動基準まで準備しておくことです。
■ 更新理由を残しておく
将来予測を更新したときには、なぜ数字を変更したのかを簡単に残しておくと役立ちます。
例えば、来月の売上見込みを5,000万円から4,500万円へ下げたのであれば、「主要顧客A社の案件延期」など、根拠を記録します。
外注費を増やしたのであれば、その理由を残します。
これを続けていると、自社の予測がどこで外れやすいかが分かってきます。
売上を常に楽観的に見積もっているのか、外注費を少なく見積もりがちなのか、採用計画が予定より遅れるのかといった傾向です。
予測精度は、最初から高い必要はありません。
毎月見直し、予測と実績の差を確認することで徐々に改善できます。
重要なのは、予測が外れたことを問題にするのではなく、外れた理由を次の予測へ反映することです。
経営計画を途中で変更することを、計画未達や失敗のように感じる経営者もいます。
しかし、環境が変わっているのに計画だけを守る方が危険です。
例えば、原材料価格が大幅に上昇したにもかかわらず、年度当初の利益目標をそのまま維持しようとすれば、無理な売上目標や過度な経費削減につながることがあります。
主要顧客の事業方針が変わったのに、当初の売上計画を現場へ求め続ければ、営業担当者は値引きをしてでも数字を作ろうとするかもしれません。
計画は経営者を縛るものではありません。
判断の基準です。
前提条件が変われば、計画も変える。
ただし、変更する理由を明確にし、そのうえで次の目標を設定する。
これが現実的な経営管理です。
■ 会議を未来に向ける
月次会議などでは、どうしても過去の説明に時間を使いがちです。
なぜ売上が未達だったのか、なぜ経費が増えたのか、誰が何をしたのかを確認しているうちに会議が終わります。
もちろん原因分析は必要です。
しかし、経営会議で本当に重要なのは、その原因を踏まえて今後どうするかです。
先月の売上が10%少なかったのであれば、その影響が翌月以降にも続くのかを確認します。
続くのであれば、年間見込みをどう修正するのか、その状態で利益や資金はどうなるのかを話します。
そして、何をいつまでに変えるのかを決めます。
経営会議を「過去を説明する場」から「未来を修正する場」へ変える。
それだけでも、経営管理の性格は大きく変わります。
■ 月次の型に組み込む
将来見通しの更新を続けるためには、特別な作業にしないことが重要です。
試算表が完成したら実績を確認し、その結果を受けて今後3か月から6か月程度の見通しを修正する。
大幅な変更がなければ、確認だけで終わっても構いません。
変化があれば、その理由を確認し、必要な施策を決めます。
中小企業であれば、精密なシステムを導入しなくても、Excelなどで十分に管理できます。
重要なのは、資料の見栄えではありません。
毎月同じタイミングで、「このまま進んだ場合にどうなるか」を確認する習慣です。
■ 畔の見方
経営改善というと、過去の決算書を分析して問題点を探す仕事だと思われることがあります。
しかし、本当に重要なのは、その分析結果を未来へつなげることです。
例えば、直近3か月で粗利益率が低下しているのであれば、「原因は値引きでした」で終わるわけにはいきません。
同じ状態が今後も続いた場合、6か月後の利益はいくらになるのか。資金繰りにはどの程度影響するのか。それまでに価格改定や顧客整理を行えば、どこまで改善できるのかを考えます。
人件費が上昇している場合も同じです。
上昇した事実を確認するだけではなく、今後予定されている昇給や採用を反映し、その状態で会社が利益を確保できるかを見ます。
つまり、経営管理では実績と予測をつなげます。
過去の数字を見て現在地を確認し、現在の情報から将来を予測し、その結果を見て今の行動を変える。
この循環ができると、経営者は業績悪化を結果として知るのではなく、悪化する可能性が見えた段階で対応できるようになります。
経営管理では、過去を見ることは必要です。
しかし、過去だけをどれほど詳しく分析しても、会社の未来は変わりません。
重要なのは、先月起きた変化が今後どのように続くのかを考えることです。
売上が少し減った。それは来月戻るのか、それとも主要顧客の発注減少が続くのか。
粗利益率が低下した。それは一時的な案件構成によるものなのか、仕入価格や値引きによる構造的な変化なのか。
人件費が増えた。それは一時的な残業なのか、今後も続く賃金水準の変化なのか。
こうした問いを毎月繰り返し、3か月後、6か月後の会社を見直します。
年度初めに作った計画は、その時点で考えた未来にすぎません。
経営環境が変われば、未来も変わります。
だからこそ、計画も更新する必要があります。
先の数字を毎月見直していれば、悪化する前に売上対策を始めることができます。固定費を段階的に見直すこともできますし、資金に余裕があるうちに金融機関へ相談することもできます。
経営状態が悪化してから対応する会社と、悪化する可能性を見つけて先に対応する会社では、同じ環境変化に直面しても結果は大きく変わります。
予防的な経営管理とは、将来を正確に予測することではありません。
毎月未来を見直し、まだ選択肢があるうちに行動を変えること。
その習慣が、会社を大きな業績悪化から守るための重要な経営管理になります。
この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士
谷中 憲
(たになか あきら)
中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

