売上はあるのに、なぜ利益が残らないのか

「売上は、それほど悪くないはずなのに。」
業績が悪化した会社の経営者から、よく聞く言葉です。
前年並みの売上は確保している。
営業担当者も忙しく動いている。
受注件数も極端に減ってはいない。
現場には仕事があり、社員も残業している。
でも、利益が残らない。
試算表を見ると赤字になっている。
預金残高が少しずつ減っている。
納税や賞与の時期になると資金繰りが苦しくなる。
借入金は減らず、むしろ追加融資が必要になる。
売上が大きく落ちているのであれば、原因は分かりやすいものです。
しかし、一定の売上があるにもかかわらず利益が残らない会社では、問題が見えにくくなります。
経営者は、もう少し売上を増やせば利益が出ると考えます。営業担当者に新規開拓を求め、既存顧客への提案を増やし、値引きをしてでも受注を確保しようとします。
ところが、売上を増やしても利益が増えない。
それどころか、仕事量が増え、外注費や残業代が膨らみ、資金繰りがさらに苦しくなることもあります。
売上と利益は、同じものではありません。
売上は、会社が顧客に商品やサービスを提供した金額です。
利益は、その売上を得るために必要となった費用を差し引いた後に残る金額です。
当然ですが、売上があっても、費用がそれ以上に増えていれば、利益は残りません。
業績改善では、売上高だけを見るのではなく、その売上がどのように作られ、どれだけの利益と資金を会社に残しているかを確認する必要があります。
目次
■ 売上と利益
会社の業績を判断するとき、最も目につきやすい数字は売上高です。
前年より売上が増えた。
月商が目標に届いた。
大口案件を受注した。
主要顧客との取引が拡大した。
売上が増えることは、一般的には良いことです。
しかし、売上高だけでは会社の状態を判断できません。
一千万円の売上を作るために、仕入れや外注費が九百万円かかっていれば、粗利益は百万円です。
同じ一千万円の売上でも、仕入れや外注費が六百万円であれば、粗利益は四百万円残ります。
さらに、粗利益から人件費、家賃、広告費、システム費、借入金利息などを支払わなければなりません。
売上が増えているのに利益が減っている会社では、売上の増加以上に費用が増えている可能性があります。
売上高だけを追いかけていると、この変化を見落とします。
粗利益はいくら残っているのか。
粗利益率は維持されているのか。
固定費を回収できているのか。
営業利益はいくら残っているのか。
その利益が現金として入ってきているのか。
これらを合わせて見る必要があります。
売上があることと、会社が儲かっていることは別です。
■ 粗利の低下
売上はあるのに利益が残らない会社で、最初に確認すべき数字の一つが粗利益率です。
粗利益率とは、売上高から売上原価を差し引いた粗利益が、売上高に対してどれくらい残っているかを示す割合です。
この割合が少し下がるだけでも、会社全体の利益には大きな影響が出ます。
例えば、売上高が年間十億円の会社で、粗利益率が三〇%から二八%へ低下したとします。
わずか二ポイントの低下に見えます。
しかし、金額にすると二千万円の粗利益が失われています。
売上高は前年と同じでも、人件費や家賃などの固定費が変わっていなければ、その二千万円がそのまま利益の減少につながります。
粗利益率が下がる原因は一つではありません。
仕入価格が上昇した。
外注単価が上がった。
値引きが増えた。
採算の低い案件が増えた。
追加作業を請求できていない。
原価見積りが甘い。
受注後に仕様変更が繰り返されている。
一件ごとの影響は小さく見えても、年間を通じて積み重なると大きな損失になります。
特に注意が必要なのは、売上高が維持されている場合です。
売上が落ちていないため、経営者は危機感を持ちにくい。現場も仕事があるため、業績が悪化している実感を持ちにくい。
しかし、粗利益率が下がり続ければ、会社は確実に弱っていきます。
売上高の増減だけでなく、粗利益額と粗利益率を毎月確認する。
業績改善では、これが基本になります。
■ 値引きの常態化
利益が残らない会社では、値引きが習慣化していることがあります。
競合他社より高いと言われた。
長年の取引先から協力を求められた。
受注を失いたくなかった。
営業目標を達成する必要があった。
一件ごとには理由があります。
しかし、値引きは売上を守る一方で、利益を直接減らします。
売上価格を五%下げたからといって、利益も五%だけ減るわけではありません。
原価が変わらなければ、値引き分はそのまま粗利益の減少になります。
例えば、売価百万円、原価八十万円の仕事があるとします。通常であれば、粗利益は二十万円です。
ここから五万円を値引きすると、売上は九十五万円、粗利益は十五万円になります。
売上は五%しか減っていませんが、粗利益は二五%減っています。
利益率の低い仕事ほど、値引きの影響は大きくなります。
それでも営業現場では、売上高や受注件数が評価されていると、値引きをしてでも受注しようとします。
受注した営業担当者は評価される。
しかし、利益は会社全体から失われる。
この構造では、値引きは止まりません。
価格を決める際には、最低限必要な利益額や利益率を明確にする必要があります。
どこまでなら営業担当者が判断できるのか。
どの水準を下回る場合は承認が必要なのか。
値引きする代わりに、仕様や対応範囲を見直せないか。
価格以外の条件で交渉できないか。
値引きを完全になくすことは難しいかもしれません。
しかし、値引きの理由と影響額を把握せず、現場判断だけで続けていれば、売上はあっても利益は残らなくなります。
■ 原価の見落とし
利益が残らない原因として、原価を正しく把握できていない場合もあります。
製造業であれば、材料費や加工費は比較的見えやすいかもしれません。
一方、広告制作、システム開発、設計、コンサルティング、保守サービスなど、人の作業時間によって価値を提供する事業では、原価が見えにくくなります。
- 案件に何時間かかったのか
- 誰が何時間関与したのか
- 修正対応は何回発生したのか
- 管理職や営業担当者の時間をどれだけ使ったのか
- 外注費以外に社内人件費はいくらかかったのか
これらを把握していなければ、正確な採算は分かりません。
見積り段階では利益が出る予定だった。
しかし、受注後に打合せが増えた。
顧客からの修正依頼が繰り返された。
担当者の経験不足で作業時間が延びた。
管理職が何度も確認した。
納期に間に合わせるため、残業や外注が発生した。
結果として、想定していた利益が消えている。
それでも売上高には当初の受注金額が計上されるため、表面上は仕事が取れているように見えます。
原価管理がなければ、会社は同じ条件で次の仕事も受注します。
赤字案件であることに気づかないまま、受注を繰り返すことになります。
利益を残すためには、見積り時の原価と実績原価を比較する必要があります。
- なぜ想定より時間がかかったのか
- 追加作業を請求できなかったのはなぜか
- 見積りの前提が間違っていたのか
- 業務の進め方に問題があったのか
案件終了後に振り返り、次の見積りへ反映するという地道な積み重ねがなければ、採算は改善しません。
■ 忙しさの罠
社員が忙しく働いている会社ほど、経営者は一定の安心感を持ちます。
受注があって現場が動いている。
社員が残業している。
顧客から次々と依頼が来て、会社が活発に動いているように見えます。
しかし、忙しさと利益は一致しません。
むしろ、利益が出ない仕事ほど現場を忙しくしている場合があります。
低単価の仕事。
修正の多い仕事。
短納期の仕事。
例外対応が多い仕事。
顧客との調整に時間がかかる仕事。
管理職の確認が何度も必要な仕事。
こうした仕事は、多くの時間を使い、社員は懸命に働いています。
しかし、その労働時間に見合う利益が生まれていない。
忙しいため、新規営業に時間を使えない。
業務改善にも取り組めない。
人材育成も後回しになる。
利益率の高い案件を受ける余力もない。
結果として、低採算業務から抜け出せなくなります。
経営者が見るべきなのは、仕事量の多さだけではありません。
その仕事が、どれだけの利益を生んでいるかです。
売上高を労働時間で割る。
粗利益を労働時間で割る。
顧客別や案件別に時間を確認する。
このように、時間と利益を結びつけて見る等の工夫をする必要があります。
忙しいのに利益が出ない会社では、社員の働き方を責める前に、会社がどのような仕事を受けているかを見直すべきです。
■ 顧客別の採算をみる
会社全体では利益が出ていなくても、すべての顧客からの仕事が赤字であるとは限りません。
利益を生んでいる顧客と、利益を失わせている顧客が混在していることがあります。
売上額が大きい顧客。
取引期間が長い顧客。
知名度の高い顧客。
これらが、必ずしも優良顧客とは限りません。
大口顧客ほど価格交渉が厳しいことがあります。専用の対応や特別な納期を求められることもあります。営業担当者、現場担当者、管理職が多くの時間を使っている場合もあります。
一方、売上額はそれほど大きくなくても、定型的な仕事を安定して発注し、追加対応が少なく、入金も早い顧客は、会社に利益と資金を残します。
顧客を売上高だけで評価すると、この違いが見えません。
顧客別採算を見る際には、売上高と直接原価だけでなく、対応時間や間接的な負担も確認する必要があります。
- 営業担当者がどれだけ訪問しているのか
- 打合せや修正に何時間使っているのか
- 請求や回収に手間がかかっていないか
- クレームや緊急対応が多くないか
- 管理職や経営者がどれだけ関与しているのか
こうした負担を含めると、見え方が変わることがあります。
ただし、採算が悪いからといって、直ちに取引をやめる必要はありません。
- 価格を見直す
- 対応範囲を整理する
- 追加作業を有料化する
- 発注方法を標準化する
- 納期条件を変更する
まずは、上記のような採算改善策を交渉します。
それでも改善できない場合は、取引量の縮小や取引継続の判断が必要になります。
売上を減らす判断は、経営者にとって不安を伴います。
しかし、赤字取引を続けて会社全体が弱れば、利益を生んでいる顧客への対応にも影響が出ます。
守るべきなのは売上高ではなく、会社が継続できる利益構造です。
■ 固定費の相対的な膨張
売上原価や顧客別採算に大きな問題がなくても、固定費が重すぎれば利益は残りません。
会社が成長していた時期に、人員を増やした。
広い事務所へ移転した。
設備を導入した。
管理職を増やした。
複数のシステムやサービスを契約した。
当時の売上規模では合理的な判断だったかもしれません。
しかし、売上が減少しても固定費は自動的には減りません。
売上規模は縮小した。
従業員数も減った。
事業の一部から撤退した。
それにもかかわらず、事務所、設備、管理体制、契約だけが以前の規模のまま残っている。
この状態では、売上が一定程度あっても利益は出にくくなります。
固定費は、毎月少しずつ会社の利益を奪います。
一つの費用だけを見れば、致命的には見えないかもしれません。
しかし、人件費、家賃、リース料、保守料、顧問料、システム利用料などを合計すると、会社が現在の売上で負担できる水準を超えていることがあります。
必要なのは、現在の会社規模に合わせて固定費を組み直すことです。
過去に必要だったかどうかではありません。
今後の事業に必要かどうかで判断します。
固定費を見直すことは、会社を小さくすることだけを意味しません。
利益が出る規模へ会社を適正化し、その後の成長に備えることです。
■ 資金の先行
売上が増えているのに、資金繰りが苦しくなる会社もあります。
売上を計上した時点と、実際に入金される時点には差があります。
商品を仕入れる。
外注先へ支払う。
社員へ給与を払う。
その後に顧客から入金される。
この順番であれば、売上が増えるほど先に必要な資金も増えます。
特に、入金までの期間が長い事業では、急激な売上増加が資金繰りを圧迫します。
利益が出る仕事であっても、入金される前に資金が尽きれば継続できません。
また、決算上は利益が出ていても、売掛金が回収できていなければ現金は増えません。
- 請求が遅れている
- 入金条件が長い
- 未回収債権が増えている
- 顧客ごとの入金状況を確認していない
こうした状態では、売上高や利益だけを見ても会社の安全性は判断できません。
売上、利益、資金は別々に管理する必要があります。
いつ請求するのか。
いつ入金されるのか。
それまでにいくら支払いがあるのか。
不足する資金はいくらか。
資金繰り表を作り、先の入出金を確認する。
売上があるのに預金が減る会社では、利益構造だけでなく、入金と支払いの時間差も確認しなければなりません。
■ 数字の遅れ
利益が残らない会社では、数字が経営判断に間に合っていないことがあります。
決算書を見るのは年に一度。
試算表が完成するのは二か月後。
顧客別採算は集計していない。
案件別の原価も分からない。
資金繰りは通帳残高で判断している。
この状態では、問題が起きてから気づくことになります。
粗利益率が下がっていても分からない。
外注費が増えていても分からない。
低採算案件が増えていても分からない。
固定費が売上規模に合っていなくても分からない。
数字が分かったときには、すでに数か月分の損失が発生しています。
経営改善に必要なのは、精密な数字だけではありません。
多少の誤差があっても、早く把握することが重要です。
月次の売上高。
粗利益額と粗利益率。
主要な固定費。
顧客別や事業別の採算。
預金残高と今後の資金繰り。
これらを毎月確認するだけでも、変化に気づきやすくなります。
経営数字は、過去を記録するためだけのものではありません。
次の判断をするために使うものです。
数字が遅ければ、判断も遅れます。
判断が遅れれば、赤字は積み上がります。
■ 畔の見方
売上はあるのに利益が残らないというご相談を受けた場合、畔ではまず、売上がどのような利益構造で作られているかを確認します。
全社の粗利益率はどう変化しているのか。
事業別、部門別に利益は出ているのか。
顧客別、案件別に採算の差があるのか。
外注費や人件費はどこで増えているのか。
固定費は現在の売上規模に合っているのか。
利益が資金として回収されているのか。
数字を分けて見ることで、利益が失われている場所を特定します。
低採算顧客の価格を見直すべきなのか。
追加作業の請求方法を改めるべきなのか。
案件管理を強化すべきなのか。
外注と内製の範囲を見直すべきなのか。
固定費や人員配置を現在の規模に合わせるべきなのか。
原因によって、取るべき施策は変わります。
売上が足りない会社と、売上はあるが利益率が低い会社では、同じ改善策を使うことはできません。
だからこそ、経営改善では最初に現状を見える化する必要があります。
数字を細かく分解し、経営者と一緒に原因を確認し、どこから手をつけるかを決める。
利益改善は、気合いや売上目標だけで進めるものではありません。
数字に基づいて、会社の仕事の取り方、価格、顧客、業務、人員、固定費を組み直す作業です。
売上があるのに、利益が残らない。その原因は、売上不足とは限りません。
様々な問題が重なっている可能性があります。
売上を増やせば、すべてが解決するわけではありません。
利益率の低い仕事を増やせば、社員は忙しくなります。
外注費や残業代も増えます。
運転資金も必要になります。
それでも会社に利益は残りません。
大切なのは、売上の金額ではなく、売上の質を見ることです。
どの売上が利益を生んでいるのか。
どの売上が会社の時間と資金を奪っているのか。
どの費用が事業に必要なのか。
どの固定費が過去のまま残っているのか。
これらを数字で確認しなければ、業績改善の優先順位は決まりません。
会社は、売上高だけでは存続できません。
仕入れを支払い、社員へ給与を払い、借入金を返済し、将来への投資を行うためには、利益と資金が必要です。
売上はある。
しかし、その売上が会社に何を残しているのか。
その問いに答えることが、利益改善の出発点です。
この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士
谷中 憲
(たになか あきら)
中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

