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経営・人事労務・広報コラム

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社員が主体的に動かない会社の共通点

「社員が主体的に動かない。」

中小企業の経営者から、非常によく聞く言葉です。

言われたことはやる。
しかし、自分から提案や改善はしない。
問題に気づいても、上司の指示を待つ。
少し難しいことになると、すぐに確認する。
会社全体のことを考えて動く社員が少ない。

経営者から見ると、歯がゆい状態です。

もっと自分で考えてほしい。
現場の課題に気づいてほしい。
改善案を出してほしい。
自分の仕事だけでなく、会社全体を見てほしい。
管理職や中堅社員には、もう少し経営者目線を持ってほしい。

そう感じる場面は少なくありません。

しかし、ここで注意が必要です。

社員が主体的に動かない原因を、本人の意識や性格だけに求めてしまうと、問題の本質を見誤ります。

もちろん、社員一人ひとりの姿勢には差があります。自ら考えて動く人もいれば、指示を待つ傾向が強い人もいます。責任感や成長意欲にも個人差があります。

しかし実務上、社員が主体的に動かない会社には、組織側の共通点があります。

主体性を求めているにもかかわらず、主体的に動ける環境を整えていない。
自分で考えろと言いながら、判断基準を共有していない。
提案してほしいと言いながら、提案が通る仕組みがない。
任せると言いながら、実際には細かく確認している。
失敗を責める一方で、挑戦しないことは見過ごしている。

このような状態では、社員は主体的に動きません。

主体性とは、精神論だけで生まれるものではありません。
社員が自分で考え、判断し、行動できる組織構造があって初めて育つものです。

■ 主体性の定義

まず確認すべきことがあります。

「会社は、社員にどのような主体性を求めているのでしょうか?」

この問いに明確に答えられない会社は少なくありません。

主体的に動いてほしい。
自分で考えてほしい。
もっと当事者意識を持ってほしい。

これらはよく使われる言葉です。

しかし、非常に抽象的です。

社員から見れば、何をすれば「主体的」と評価されるのかが分かりません。

上司に確認せずに進めることなのか。
改善提案を出すことなのか。
顧客対応で一歩踏み込むことなのか。
部門全体の課題を考えることなのか。
会社の利益を意識して行動することなのか。

求められる行動が曖昧なままでは、社員は動きにくくなります。

経営者は「主体的に動いてほしい」と考えている。
社員は「勝手に動いてよいのか分からない」と感じている。
管理職は「どこまで任せてよいか分からない」と迷っている。

この状態では、主体性は育ちません。

主体性を求めるなら、まず会社として具体的な行動に落とす必要があります。

例えば、若手社員に求める主体性と、管理職に求める主体性は違います。

若手社員であれば、分からないことを早めに確認する、自分の業務の改善点を出す、報告の仕方を工夫する、といった行動かもしれません。

中堅社員であれば、後輩を支援する、業務の滞りに気づく、部署内の役割分担を考える、といった行動が求められるかもしれません。

管理職であれば、部門目標から逆算して判断する、部下に仕事を任せる、他部署と調整する、経営課題を現場に落とし込む、といった行動になります。

一口に主体性と言っても、等級や役割によって中身は変わります。

ここを整理しないまま「主体性がない」と言っても、社員には伝わりません。

抽象的な期待は抽象的な不満を生み、具体的な期待だけが具体的な行動につながります。

■ 判断材料の不足

社員に主体性を求めるなら、判断に必要な情報を与える必要があります。

会社がどこへ向かっているのか。
今、何が課題なのか。
どの数字が悪いのか。
どの顧客を重視しているのか。
どの事業を伸ばしたいのか。
何を優先し、何を後回しにするのか。

こうした情報がなければ、社員は自分で判断できません。

現場の社員は、自分の業務範囲の情報は持っています。顧客の反応、日々の作業、現場の困りごと、部門内の空気。そうした情報には詳しい。

しかし、会社全体の方向性や経営上の優先順位が見えていなければ、部分最適の判断になりやすい。

社員からすれば、自分の仕事をきちんとこなしているつもりです。しかし経営者から見ると、「会社全体を見ていない」と映る。

これは、社員の視座が低いからだけではありません。会社が、視座を上げるための情報を渡していない場合があります。

例えば、会社として利益率改善が最優先課題であるにもかかわらず、現場には売上目標だけが伝えられている。すると社員は、売上を取ることを優先します。採算の悪い仕事を受けることもあります。

会社として若手育成を重視しているにもかかわらず、管理職には短期成果だけが求められている。すると管理職は、自分で処理した方が早いと考え、部下に仕事を任せません。

会社として業務改善を進めたいと言っているにもかかわらず、現場には改善に使える時間も権限も与えられていない。すると社員は、日常業務をこなすだけになります。

主体的に動くには、情報が必要です。

情報がないまま主体性を求めることは、地図を渡さずに目的地へ向かえと言うようなものです。

社員に考えてほしいなら、考える材料を渡す必要があります。
社員に判断してほしいなら、判断基準を共有する必要があります。
社員に会社全体を見てほしいなら、会社全体の状況を見せる必要があります。

情報を閉じたまま主体性だけを求めても、組織は動きません。

■ 失敗への向き合い方

主体性が育たない会社では、失敗への向き合い方にも問題があります。

新しいことを提案する。
自分なりに判断する。
改善を試してみる。
顧客対応で一歩踏み込む。

こうした行動には、必ず失敗の可能性があります。

主体的に動くということは、一定のリスクを引き受けることでもあります。

しかし、失敗したときに強く責められる会社では、社員は動かなくなります。

過去に提案したら否定された。
自分で判断したら叱責された。
改善案を出したら「余計なことをするな」と言われた。
挑戦した結果よりも、失敗だけが問題にされた。

このような経験があると、社員は学習します。

動かない方が安全である。
言われたことだけやる方がよい。
自分で判断するより、確認した方がよい。
提案して否定されるくらいなら、黙っていた方がよい。

こうして、主体性は失われていきます。

もちろん、失敗をすべて許容すればよいわけではありません。会社に大きな損害を与える判断、法令違反につながる判断、顧客との信頼を損なう行動は厳しく扱う必要があります。

しかし、すべての失敗を同じように責めると、社員は挑戦しなくなります。

重要なのは、失敗の種類を分けることです。

準備不足による失敗なのか。
報告を怠った失敗なのか。
判断基準が共有されていなかった失敗なのか。
新しい挑戦の中で起きた失敗なのか。
会社側の支援不足による失敗なのか。

ここを見なければ、失敗は単なる責任追及で終わります。

主体性を育てる会社では、失敗を学習に変えます。

何を見て判断したのか。
どの情報が不足していたのか。
どこで相談すべきだったのか。
次に同じ場面があれば、どうするのか。

この振り返りがあれば、失敗は経験になります。

失敗を責めるだけの会社では、社員は動かなくなります。
失敗を学習に変える会社では、社員は次に動きやすくなります。

■ 提案が消える会社

経営者は、社員にもっと提案してほしいと考えます。

現場の改善案を出してほしい。
顧客対応の工夫を考えてほしい。
業務効率化の意見を出してほしい。
会社を良くするために、気づいたことを言ってほしい。

これは自然な期待です。

しかし、社員が提案しない会社では、過去に提案が扱われなかった経験がある場合があります。

意見を出したが、何も返ってこなかった。
改善案を出したが、検討されたか分からない。
会議で発言したが、その後何も変わらなかった。
結局、社長や上司の考えどおりになった。
提案した人だけが追加業務を負うことになった。

このようなことが繰り返されると、社員は提案しなくなります。

提案しても無駄だと思うからです。

社員が提案しないのは、意欲がないからとは限りません。
提案が組織の中で扱われる仕組みがないからかもしれません。

提案を求めるなら、提案への対応を設計する必要があります。

  • 提案を受け付ける場を作る
  • 誰が検討するのかを決める
  • 採用するかどうかを返す
  • 採用しない場合も理由を伝える
  • 実行する場合は、担当者と期限を決める
  • 提案したこと自体も評価する

ここまで行わなければ、提案は継続しません。

特に注意すべきなのは、提案者にすべてを背負わせることです。

「いい案だから、あなたがやってください」

これは一見すると自然に聞こえます。しかし、提案するたびに仕事が増えるのであれば、社員は提案を避けるようになります。

もちろん、提案者が実行に関与することは重要です。しかし、会社として必要な改善であれば、組織として支援する必要があります。

提案を歓迎するだけでは足りません。
提案を動かす仕組みが必要です。

社員が主体的に動く会社では、提案が放置されません。
小さな提案でも扱われ、検討され、実行につながる経験があります。

その経験が、「言ってもよい」「動いてもよい」という空気を作ります。

■ 答えを出しすぎる上司

社員が主体的に動かない会社では、上司や経営者が答えを出しすぎていることがあります。

部下が相談に来る。
上司がすぐに答える。
部下はその通りに動く。
問題は早く処理される。

短期的には効率的です。

しかし、これを繰り返すと、部下は考える機会を失います。

相談すれば答えが出る。
迷ったら上司が決めてくれる。
自分で考えるより、聞いた方が早い。
失敗するくらいなら、最初から確認した方が安全である。

こうして、部下は指示待ちになります。

上司から見ると、「なぜ自分で考えないのか」と感じます。しかし、これまで上司が答えを出し続けてきた結果、部下が考える前に確認する習慣になっている場合があります。

主体性を育てるには、上司がすぐに答えを出さないことも必要です。

「あなたはどう考えますか」
「選択肢は何がありますか」
「どの案がよいと思いますか」
「その理由は何ですか」
「リスクは何ですか」
「次に何を確認すべきですか」

このように問い返す。

もちろん、すべての場面で部下に考えさせればよいわけではありません。緊急時や重要なリスクがある場面では、上司が判断すべきです。経験の浅い社員に過度な判断を求めることも適切ではありません。

しかし、日常的な業務の中では、部下に考えさせる余地を作る必要があります。

主体性は、「自分で考えた経験」によって育ちます

上司が答えを出し続ける会社では、部下は答えを待つ人になります。
上司が問いを投げる会社では、部下は考える人になります。

この差は、時間をかけて大きくなります。

部下が主体的に動かないと感じるなら、上司自身が答えを与えすぎていないかを見直す必要があります。

■ 主体性を評価する

社員に主体性を求めるなら、評価制度でも主体性を扱う必要があります。

ところが、主体性を求めながら、評価制度では成果や勤怠、作業量だけを見ている会社があります。

売上を上げたか。
ミスなく処理したか。
遅刻欠勤がないか。
与えられた業務をこなしたか。

これらも重要です。基本業務を正確に行うことは、会社にとって不可欠です。

しかし、主体性を求めるのであれば、主体的な行動も評価対象にしなければなりません。

  • 改善提案を行ったか
  • 自ら課題を発見したか
  • 周囲を巻き込んだか
  • 後輩を支援したか
  • 部門を越えて協力したか
  • 会社の方針を理解して行動したか

こうした行動が評価されなければ、社員は主体的に動く理由を持ちにくくなります。

特に、主体的に動いた社員ほど損をする会社では、主体性は育ちません。

改善提案をした人だけ仕事が増える。
周囲を助ける人に業務が集中する。
自分から動く人ほど負担が重くなる。
しかし評価は、与えられた業務を無難にこなした人と大きく変わらない。

この状態では、社員は学習します。

余計なことをしない方がよい。
自分の範囲だけを守る方がよい。
主体的に動くと損をする。

このような組織で「主体性を持て」と言っても、説得力はありません。

評価制度は、会社から社員へのメッセージです。

何を評価するのか。
何を昇給や昇格につなげるのか。
どの行動を良い行動として扱うのか。

それによって社員の行動は変わります。

主体性を求めるなら、評価制度の中で、主体的な行動を具体的に定義し、評価する必要があります。

■ 権限と責任の整理

主体性を求める会社で見落とされがちなのが、権限と責任の整理です。

社員に自分で考えて動いてほしい。
しかし、どこまで動いてよいかは決まっていない。
判断すると責任を問われる。
確認しすぎると主体性がないと言われる。

この状態では、社員は動けません。

主体的に動くには、一定の裁量が必要です。

  • どの範囲なら自分で決めてよいのか
  • どの事項は上司に相談すべきなのか
  • どの金額までは判断してよいのか
  • どの顧客対応は任されているのか
  • どの業務改善なら自分で進めてよいのか

この範囲が見えていなければ、主体的な行動は取りにくい。

特に中小企業では、暗黙の了解で仕事が進んでいることがあります。長くいる社員は分かっている。社長の考えも何となく理解している。過去の経緯も知っている。しかし、新しい社員や若手社員には、それが分かりません。

その結果、古参社員は「自分で考えれば分かる」と言い、若手社員は「何を基準に動けばよいか分からない」と感じる。

このズレが、主体性の差として見えている場合があります。

主体性を育てるには、権限と責任を言語化する必要があります。

どの役割に、どの判断を任せるのか。
どの範囲で責任を持つのか。
どの情報を共有するのか。
困ったときは誰に相談するのか。

ここを整えることで、社員は動きやすくなります。

主体性は、自由に動けと言うだけでは生まれません。
動いてよい範囲が分かることで、初めて発揮されます。

■ 孤立する主体的社員

主体的に動く社員がいても、その人が孤立している会社があります。

改善提案をする。
周囲に働きかける。
新しいやり方を試す。
現場の問題を指摘する。
会社のために一歩踏み込む。

本来であれば、非常に貴重な人材です。

しかし、組織によっては、このような社員が浮いてしまうことがあります。

「余計なことを言う人」
「面倒なことを増やす人」
「空気を読まない人」
「今までのやり方を否定する人」

このように見られる。

特に、現状維持の空気が強い会社では、主体的な社員ほど摩擦を生みます

周囲が変化を望んでいない。
管理職が支援しない。
経営者は期待しているが、現場には任せきり。
提案しても、実行段階で協力が得られない。

この状態では、主体的な社員は疲弊します。

最初は前向きに動いていた社員も、次第に動かなくなります。
あるいは、会社を離れていきます。

これは非常にもったいないことです。

主体性を持つ社員を活かすには、その行動を会社として支える必要があります。

  • 提案を正当に扱う
  • 周囲との調整を管理職が支援する
  • 改善活動に時間を確保する
  • 成果だけでなく行動も評価する
  • 失敗した場合も、挑戦自体を無意味にしない

こうした支援が必要です。

主体的な社員が孤立する会社では、周囲の社員はそれを見ています。

「あそこまで動いても報われない」
「提案すると面倒なことになる」
「結局、黙っていた方がよい」

そう感じると、組織全体から主体性が失われます。

主体性は、個人の資質であると同時に、組織が守り育てるものです。

■ 余白のない組織

社員が主体的に動くためには、余白も必要です。
時間の余白。
心理的な余白。
情報を考える余白。
改善に使える余白。
日々の業務で手一杯の状態では、社員は主体的に動けません。
目の前の納期に追われている。
顧客対応に追われている。
人手不足で常に業務が詰まっている。
会議や資料作成に時間を取られている。
残業を減らせと言われながら、仕事量は減っていない。
この状態で「もっと主体的に改善提案を出してほしい」と言っても、現実には難しい。
主体性は、余裕のある人だけが発揮できるものではありません。厳しい状況でも主体的に動く人はいます。
しかし、組織全体として主体性を求めるなら、一定の余白を作る必要があります。
業務改善の時間を確保する。
会議を整理する。
不要な資料作成をやめる。
属人業務を減らす。
管理職が部下と話す時間を持つ。
日常業務以外の課題に取り組む時間を作る。
このような余白がなければ、社員は目の前の仕事をこなすだけになります。
特に中小企業では、人員に余裕がありません。だからこそ、余白は自然には生まれません。意識して作る必要があります。
主体的に動く社員がいないのではなく、主体的に動く時間がない。
この状態は意外に多い。
経営者は、社員の姿勢を見る前に、社員が考える時間を持てているかを確認する必要があります。
余白のない組織では、改善は進みません。
改善が進まなければ、忙しさは固定化します。
忙しさが固定化すれば、さらに主体性は失われます。
この悪循環を断つためには、仕事の量と流れを見直す必要があります。

社員が主体的に動かない原因は、社員の意識だけではありません。
主体性の意味が曖昧である。
判断に必要な情報が共有されていない。
失敗が責められる。
提案しても扱われない。
上司が答えを出しすぎる。
評価制度が主体性を評価していない。
権限と責任が整理されていない。
主体的な社員が孤立している。
考える余白がない。
こうした構造が積み重なると、社員は主体的に動かなくなります。
社員に「もっと主体的に動いてほしい」と言うことは簡単です。
しかし、それだけで人は変わりません。
大切なのは、主体的に動ける条件を整えることです。
何を期待しているのかを明確にする。
必要な情報を共有する。
動いてよい範囲を示す。
提案を扱う仕組みを作る。
失敗を学習に変える。
上司が答えを出しすぎない。
主体的な行動を評価する。
考える時間を確保する。
この積み重ねが、社員の行動を変えていきます。
主体性は、本人任せにして育つものではありません。
会社の設計によって、育つこともあれば、失われることもあります。
社員が動かないのではなく、動きにくい会社になっていないか。
そこを見直すことが、主体性を育てる第一歩です。

この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士

谷中 憲

(たになか あきら)

中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

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