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経営・人事労務・広報コラム

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管理職が判断できない会社の共通点

「管理職が自分で判断してくれない。」

中小企業の経営者から、よく聞く悩みです。

部長、課長、リーダーという役職はある。
現場経験もある。
部下も持っている。
会議にも参加している。

それでも、いざ判断が必要な場面になると動きが止まる。

「社長に確認します」
「一度持ち帰ります」
「もう少し様子を見ます」
「関係者に確認してから進めます」

このような言葉が繰り返される。

もちろん、管理職が経営者に確認すべき場面はあります。会社の方針に関わる判断、資金に影響する判断、重要顧客への対応、人事上の重大な判断などは、管理職だけで決めてよいものではありません。

しかし、日常的な業務判断や部門内の調整、部下への指示、軽微な顧客対応まで、すべて社長確認になっている会社もあります。

この状態が続くと、会社は次第に重くなります。

現場は管理職の判断を待つ。
管理職は社長の判断を待つ。
社長は細かな確認に追われる。
結局、意思決定が社長に集中する。

そして経営者は、こう感じるようになります。

「管理職が育っていない」
「任せられる人がいない」
「結局、自分が見ないと進まない」

しかし、ここで立ち止まって考える必要があります。

管理職が判断できないのは、本当に本人の能力不足だけなのでしょうか。

実務上、管理職が判断できない会社には、いくつかの共通点があります。そしてその多くは、管理職個人の資質ではなく、会社の構造に起因しています。

■ 管理職に何を判断させるのかが決まっていない

管理職が判断できない会社では、そもそも管理職が何を判断すべきかが明確になっていません。

役職は与えられている。
部下もいる。
会議にも出ている。

しかし、権限の範囲が曖昧です。

どの金額まで決裁してよいのか。
どの顧客対応は自分で判断してよいのか。
部下の業務配分をどこまで変更してよいのか。
他部署との調整をどこまで進めてよいのか。
採用、評価、配置について、どの程度意見を持つべきなのか。

ここが整理されていなければ、管理職は判断できません。

管理職からすれば、自分で決めた後に「なぜ勝手に決めたのか」と言われるリスクがあります。逆に、確認すれば「なぜ自分で判断しないのか」と言われる。

この状態では、管理職は最も安全な行動を選びます。

それが「確認します」です。

判断しない管理職が増える背景には、判断範囲の曖昧さがあります。

会社側は「管理職なのだから、それくらい判断してほしい」と思っています。しかし、管理職本人から見ると、「どこまで任されているのか」が分からない。

この認識のズレは、非常に大きい。

役職を与えることと、権限を与えることは違います。
肩書を付けることと、判断責任を明確にすることも違います。

管理職に判断してほしいのであれば、まず会社として、何を判断させるのかを明確にする必要があります。

判断できない管理職を責める前に、判断できる条件を整えているかを確認しなければなりません。

■ 権限はないのに、責任だけ負わされている

管理職が判断できない会社では、責任と権限のバランスが崩れていることがあります。

売上責任は求められる。
部下育成も求められる。
労務管理も求められる。
品質管理も求められる。
問題が起きれば、管理職の責任になる。

しかし、実際には権限が弱い。

人員を増やす判断はできない。
業務量を調整する権限も弱い。
顧客との条件交渉も自由にはできない。
評価や処遇への関与も限定的。
他部署に協力を求めても、強制力はない。

この状態で管理職に「判断しろ」と言っても、現実には難しい。

判断には、権限が必要です。

例えば、部下の残業が多い。
管理職は残業を減らす責任を負っている。
しかし、人員を増やせない。業務量も減らせない。顧客納期も変えられない。他部署からの依頼も断れない。

この状態でできることは限られます。

結局、部下に「早く帰れ」と言うしかない。
しかし、仕事は減っていない。
部下からは不満が出る。
管理職は板挟みになる。

これは、管理職の判断力の問題ではありません。責任に見合う権限が与えられていないことの問題です。

中小企業では、管理職に多くを期待します。少人数で会社を回している以上、管理職には幅広い役割が求められます。それ自体は避けられません。

しかし、責任だけを重くし、権限を与えなければ、管理職は判断を避けるようになります。

判断しても実行できない。
実行しても支援がない。
失敗すれば責任だけ問われる。

この環境で、積極的に判断する人材は育ちにくい。

管理職に判断させたいのであれば、責任と権限をセットで設計する必要があります。

■ 判断基準が経営者の頭の中にしかない

管理職が判断できない会社では、判断基準が経営者の頭の中にしかないことがあります。

社長は分かっている。
長年の経験で判断できる。
顧客ごとの事情も知っている。
過去の経緯も覚えている。
資金繰りや会社の余力も理解している。

だから、社長は判断できます。

しかし、その判断基準が言語化されていなければ、管理職は同じようには判断できません。

社長から見ると、「なぜ分からないのか」と感じるかもしれません。
しかし、管理職から見ると、「何を基準に判断すればよいのか」が見えていないことがあります。

例えば、顧客から値引き要請があった場合。

社長は、その顧客との取引歴、将来性、利益率、競合状況、他案件への影響、会社の資金状況などを総合して判断しています。単純に値引きを受けるか断るかではなく、関係性や戦略を含めて見ています。

しかし、その考え方が共有されていなければ、管理職は判断できません。

値引きしてよいのか。
断るべきなのか。
代替案を出すべきなのか。
社長に確認すべきなのか。

迷った結果、確認に回ります。

これは自然なことです。

管理職に判断させるには、社長の判断基準を可能な限り言語化する必要があります。

何を優先するのか。
どの数字を見るのか。
どのリスクを避けるのか。
どの範囲なら現場判断でよいのか。
どの条件なら経営判断に上げるのか。

これを整理しなければ、管理職は社長の顔色を読むようになります。

社長ならどう言うか。
社長は何を嫌がるか。
社長は過去にどう判断したか。

本来見るべきなのは、会社の方針や判断基準です。しかし、それが言語化されていなければ、管理職は社長個人の反応を基準にします。

この状態では、自律的な判断は育ちません。

■ 失敗を許容しない会社では、判断経験が積めない

判断力は、判断しなければ育ちません。

これは当然のことですが、実務では見落とされがちです。

管理職に判断力を求めながら、失敗を許容しない会社があります。

少しでも判断を誤ると、強く叱責される。
過去のミスを何度も指摘される。
社長の意向と違う判断をすると、会議で厳しく問われる。
結果だけを見て、判断過程が評価されない。

このような会社では、管理職は判断を避けるようになります。

判断しなければ失敗しない。
確認すれば責任を回避できる。
社長判断にしておけば安全である。

そう学習していきます。

もちろん、会社として失敗を放置してよいわけではありません。重要な顧客を失うような判断、法的リスクを伴う判断、資金に大きな影響を与える判断については、慎重であるべきです。

しかし、すべての失敗を許さない組織では、人は判断しなくなります。

管理職が育つには、小さな判断を経験する必要があります。

判断する。
結果を見る。
なぜうまくいったのかを確認する。
なぜ失敗したのかを振り返る。
次の判断に活かす。

この繰り返しが必要です。

判断力とは、研修で身につく知識だけではありません。実際の業務の中で、責任を持って決める経験によって養われます。

失敗をすべて否定する会社では、管理職は経験を積めません。
経験を積めなければ、判断力は育ちません。
判断力が育たなければ、社長確認は減りません。

つまり、社長確認が多い会社は、過去の失敗対応の積み重ねによって、管理職が判断しにくい組織文化を作っている場合があります。

必要なのは、失敗を甘く見ることではありません。
失敗を、次の判断につなげることです。

そのためには、結果だけでなく判断過程を見る必要があります。

どの情報を見て判断したのか。
どの選択肢を比較したのか。
どのリスクを想定したのか。
どこで見誤ったのか。
次は何を変えるのか。

この振り返りがあれば、失敗は経験になります。

■ 管理職が「判断」ではなく「調整」をしている

管理職が判断できない会社では、管理職の仕事が調整に偏っていることがあります。

部下から話を聞く。
他部署に確認する。
社長に報告する。
関係者の日程を合わせる。
会議で状況を共有する。
揉めないように言葉を選ぶ。

これらも管理職の仕事です。組織で仕事を進める以上、調整は不可欠です。

しかし、調整だけでは管理職の役割として不十分です。

管理職には、判断が必要です。

優先順位を決める。
やることとやらないことを決める。
部下に任せる範囲を決める。
問題が起きたときの対応方針を決める。
部署としての動き方を決める。

この判断がなければ、調整は終わりません。

管理職が調整役にとどまっている会社では、会議や確認が増えます。なぜなら、管理職がその場で決めず、関係者の意見を集め続けるからです。

もちろん、合意形成は重要です。関係者を無視して進めれば、後で問題が起きることもあります。

しかし、合意形成と判断回避は違います。

全員が納得するまで待つ。
反対意見がなくなるまで進めない。
少しでも不安があれば社長確認に上げる。

この状態では、仕事は進みません。

管理職には、一定の不確実性の中で決める役割があります。

すべての情報がそろうことはありません。
すべての関係者が完全に納得することもありません。
それでも、会社として前に進むために判断しなければならない場面があります。

その判断を避け続けると、管理職は単なる連絡係になります。

管理職が連絡係になっている会社では、組織の実行力は高まりません。

■ 数字を見ない管理職は、判断できない

管理職が判断できない理由の一つに、数字を見ていないことがあります。

現場の状況は分かる。
部下の性格も分かる。
顧客との関係も分かる。
日々の業務も把握している。

しかし、数字を見ていない。

売上、粗利、原価、労働時間、残業、採算、回収状況、案件別利益、部門別収益。こうした数字を見ずに判断しようとすると、判断は感覚に偏ります。

もちろん、現場感覚は重要です。数字だけでは分からないこともあります。顧客との関係、社員の負荷、現場の空気、品質への影響など、数字に表れにくい情報も判断には必要です。

しかし、数字を見ない判断は危うい。

例えば、忙しい部署がある。
管理職は「人が足りない」と感じている。
しかし、実際には業務量ではなく手戻りが多いのかもしれません。
利益率の低い案件に時間を取られているのかもしれません。
特定の担当者にだけ業務が偏っているのかもしれません。
会議や資料作成に多くの時間が使われているのかもしれません。

数字を見なければ、原因を特定できません。

管理職が数字を見ていない会社では、判断が感情や印象に流れます。

「あの部署は大変そうだ」
「あの社員は頑張っている」
「この顧客は大事だ」
「最近忙しい気がする」

こうした感覚だけで判断すると、経営とのズレが生じます。

管理職には、現場感覚と数字の両方が必要です。

数字だけを見ても、現場は動きません。
現場感覚だけでも、経営判断にはなりません。

この二つをつなぐことが、管理職の重要な役割です。

管理職が判断できるようになるには、部門の数字を見せる必要があります。
そして、その数字をどう読むかを教える必要があります。

売上だけを見るのではなく、粗利を見る。
粗利だけでなく、投入時間を見る。
残業時間だけでなく、その原因を見る。
案件数だけでなく、採算を見る。

こうした数字の見方がなければ、管理職は経営に近い判断ができません。

■ 判断できない管理職を生む評価制度

評価制度も、管理職の判断力に影響します。

管理職に対して、何を評価しているか。
ここが曖昧な会社では、管理職は判断しにくくなります。

例えば、管理職が部下に厳しく指導したとします。
短期的には部下の不満が出るかもしれません。
しかし長期的には、成長や業務改善につながるかもしれません。

このとき会社が、管理職の判断をどう評価するのか。

部下から不満が出たことだけを見るのか。
指導の内容や目的を見るのか。
結果として部門が改善したかを見るのか。
管理職が適切に説明責任を果たしたかを見るのか。

ここが曖昧だと、管理職はリスクのある判断を避けます。

また、評価制度がプレイヤー成果に偏っている会社では、管理職が管理職としての仕事を後回しにします。

自分の売上。
自分の案件。
自分の処理件数。
自分の成果。

これらが重く評価される一方で、部下育成、業務改善、権限移譲、部署の仕組み作りが評価されなければ、管理職はプレイヤーとして動き続けます。

その結果、管理職は判断者になりません。

管理職に判断してほしいのであれば、評価制度上も、判断する役割を評価する必要があります。

部門目標を達成したか。
部下を育てたか。
業務改善を進めたか。
適切に権限移譲したか。
問題を早期に発見し、対応したか。
経営方針を部署に落とし込んだか。

こうした項目がなければ、管理職は何を優先すべきか分かりません。

評価制度は、社員に対するメッセージです。

会社が何を評価するかによって、管理職の行動は変わります。

判断しない管理職が多い会社では、管理職として判断することが評価されていない可能性があります。

■ 経営者が答えを出しすぎている

管理職が判断できない会社では、経営者が答えを出しすぎていることもあります。

管理職が相談に来る。
社長がすぐに答える。
社長が方針を示す。
管理職はその通りに動く。

これは短期的には効率的です。社長の判断が早く、的確であれば、問題はすぐに処理されます。

しかし、これが続くと管理職は考えなくなります。

相談すれば答えが出る。
社長が決めてくれる。
自分はそれを実行すればよい。

この状態では、管理職は判断する力を鍛えられません。

管理職を育てるには、経営者がすぐに答えを出さないことも必要です。

「あなたはどう考えるのか」
「選択肢は何か」
「それぞれのリスクは何か」
「なぜその案がよいと思うのか」
「数字で見るとどうか」
「部下にはどう説明するのか」

このように問い返すことが必要です。

もちろん、緊急時には社長が即断すべきです。重要な危機対応で、管理職育成を優先している余裕はありません。

しかし、日常的な相談まで社長がすぐに答えを出していると、管理職は判断経験を積めません。

経営者にとって、これは我慢のいることです。

自分が答えを出せば早い。
自分が決めれば正確である。
余計な失敗も防げる。

それでも、あえて管理職に考えさせる。

この時間は、一見すると非効率です。
しかし、管理職を育てるためには必要な投資です。

社長が答えを出し続ける会社では、管理職は答えを待つ人になります。
社長が問いを投げる会社では、管理職は考える人になります。

この差は非常に大きい。

■ 判断できる管理職を育てるには、仕組みが必要である

管理職が判断できるようになるには、精神論では足りません。
「もっと主体的に判断してほしい」
「管理職なのだから自覚を持ってほしい」
「自分で考えてほしい」
これらの言葉だけでは、状況は変わりません。
必要なのは、判断できる仕組みです。
まず、役割を明確にする。
次に、権限範囲を決める。
判断基準を共有する。
必要な数字を見せる。
小さな判断経験を積ませる。
判断結果を振り返る。
管理職としての行動を評価する。
この一連の仕組みが必要です。
特に重要なのは、小さな判断から始めることです。
いきなり大きな判断を任せる必要はありません。むしろ危険です。
まず、部署内の業務配分。
軽微な顧客対応。
一定金額以下の判断。
部下への指導方針。
小さな改善施策。
こうしたところから任せる。
任せたら、結果を確認する。
うまくいった理由を整理する。
うまくいかなかった場合は、判断過程を振り返る。
この繰り返しが必要です。
管理職の判断力は、放っておいて自然に育つものではありません。
しかし、適切な経験を積ませれば、確実に育ちます。
判断できる管理職を育てることは、社長の負担を減らすことでもあります。
現場の実行力を高めることでもあります。
組織の成長余地を広げることでもあります。
管理職が判断できない会社は、社長依存から抜け出せません。
管理職が判断できる会社は、社長が未来の仕事に時間を使えるようになります。

管理職が判断できない。
その原因は、管理職本人の能力不足だけではありません。
何を判断すべきかが決まっていない。
責任に見合う権限が与えられていない。
判断基準が経営者の頭の中にしかない。
失敗を許容せず、判断経験を積ませていない。
数字を見せていない。
評価制度が管理職としての判断を評価していない。
経営者が答えを出しすぎている。
こうした構造が積み重なると、管理職は判断しなくなります。
そして、管理職が判断しない会社では、あらゆる判断が社長に集まります。
社長が確認する。
社長が決める。
社長が修正する。
社長が責任を負う。
短期的には、その方が早いかもしれません。
しかし長期的には、会社の成長を止めます。
管理職に判断させることは、社長が楽をするためだけではありません。
組織として判断できる会社を作るためです。
判断できる管理職が増えれば、現場は速くなります。
会議は短くなります。
社長確認は減ります。
部下も育ちます。
会社全体の実行力が高まります。
そのために必要なのは、「もっと判断しろ」と言うことではありません。
判断できる範囲を定めること。
判断基準を共有すること。
必要な情報を渡すこと。
小さく任せること。
結果を振り返ること。
管理職としての判断を評価すること。
この積み重ねが、管理職を判断できる人材に変えていきます。
管理職は、肩書だけでは育ちません。
判断する経験によって育ちます。
そして、その経験を与えるかどうかは、会社の設計次第です。

この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士

谷中 憲

(たになか あきら)

中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

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