column

経営・人事労務・広報コラム

  • 広報・コミュニケーション

社長が細かいことまで確認する会社の危うさ

「一応、社長に確認してから進めます。」

この言葉が、社内で頻繁に使われている会社があります。

金額の大きい案件。
重要な取引先への提案。
採用や人事評価。
組織変更。
資金繰り。
こうした重要事項で社長確認が必要になるのは当然です。

しかし実際には、それほど重要ではないことまで社長に確認が上がっている会社があります。

見積書の細かな表現。
社内資料の文言。
日常的な顧客対応。
備品の購入。
会議資料の修正。
担当者間で決められるはずの業務の進め方。

これらが、逐一社長に確認される。

社長自身も、「自分が見ないと心配だ」と感じています。
社員側も、「社長に確認しておけば安心だ」と考えています。
管理職も、「最終的には社長判断だから」と思っています。

その結果、会社のあらゆる判断が社長に集まります。

一見すると、社長が細部まで把握している、統制の取れた会社のようにも見えます。特に中小企業では、社長の判断が早く、経験も豊富で、現場の事情にも詳しいことが多い。そのため、社長確認によってミスを防げているように感じる場面もあります。

しかし、長期的に見ると、この状態は非常に危うい。

社長の時間が奪われる。
管理職が育たない。
社員が判断しなくなる。
意思決定が遅くなる。
会社の成長が社長一人の処理能力に制約される。

社長が細かいことまで確認してしまう会社は、短期的には安全に見えます。
しかし、その安全は、組織の自律性を犠牲にして成り立っていることがあります。

■判断基準が共有されていない

社長に確認が集中する会社では、社員が怠けているわけでも、管理職が無責任なわけでもありません。

多くの場合、会社としての判断基準が共有されていないのです。

どこまで現場で決めてよいのか。
いくらまでなら担当者が判断できるのか。
どの内容なら管理職決裁でよいのか。
どの案件は社長判断が必要なのか。
顧客対応で優先すべき考え方は何か。

こうした基準が曖昧なままだと、社員は自分で判断することに不安を覚えます。

間違えたらどうなるのか。
後から社長に怒られるのではないか。
取引先に迷惑をかけるのではないか。

その結果、最も安全な選択肢として「社長に確認する」という行動を取ります。

これは、社員個人の問題というより、組織として自然な反応です。

判断基準が共有されていない組織では、判断は上に上がります。
責任範囲が曖昧な組織では、確認が増えます。
過去に判断ミスを強く責められた経験がある組織では、社員はますます慎重になります。

社長確認が多いという現象は、社員が考えていないことの表れではありません。むしろ、会社として「どのように考えればよいか」が示されていないことの表れです。

だからこそ、社長確認を減らしたいのであれば、単に「自分で考えろ」と言うだけでは不十分です。

何を基準に考えるのか。
どの範囲まで任せるのか。
判断に迷ったとき、何を優先するのか。

ここを整理しなければ、社員は自律的には動けません。

■ 社長が優秀だから、会社は社長に依存する

中小企業では、社長が非常に優秀であることがほとんどです。

営業も分かる。
財務も見ている。
顧客との関係も深い。
現場の事情も知っている。
過去の経緯もすべて把握している。

なので、社長に聞くと判断が早いうえに正確である。
つまり、社長が動くと物事が進む。

この状態は、創業期や成長初期には大きな強みになります。

会社の規模が小さいうちは、社長が全体を見て、素早く判断し、現場に指示を出すことで、事業は前に進みます。むしろ、そのスピード感が中小企業の強みになります。

しかし、会社が一定の規模を超えると、同じやり方が限界を迎えます。

社長が確認する件数が増える。
社長の予定が詰まる。
社長の返答待ちで仕事が止まる。
社員は自分で判断しなくなる。
管理職は調整役にとどまる。

こうなると、かつて強みだった社長の関与が、会社の成長を妨げる要因になります。

社長が優秀であるほど、周囲は頼ります。
社長が正しい判断をするほど、社員は自分で判断しなくなります。
社長が細かく見てくれるほど、管理職は自分の責任範囲を狭めます。

これは、社長本人に悪意があるわけではありません。むしろ、会社を守ろうとして細部まで見ていることが多い。

しかし、社長が会社を守るために確認している行為が、長期的には会社の自律性を弱めている可能性があります。

経営者にとって難しいのは、自分が見た方が早いと分かっていながら、あえて任せることです。

任せれば、最初は遅くなります。
ミスも起きます。
説明も必要になります。
社長から見れば、不十分に見える場面も増えます。

それでも、任せなければ組織は育ちません

社長の能力が高い会社ほど、意識的に社長依存を外していく必要があります。

■ 確認が多い会社では、管理職が育たない

社長確認が多い会社では、管理職が育ちにくくなります。

管理職が判断する機会を失うからです。

管理職は、本来、現場と経営の間に立ちます。

会社方針を理解し、部署内に落とし込む。
部下の状況を見ながら業務を配分する。
顧客対応や社内調整の判断を行う。
問題が起きたときに一次対応する。
必要に応じて経営者へ報告し、判断を仰ぐ。

これが管理職の役割です。

ところが、社長確認が常態化している会社では、管理職は判断者ではなく、伝達者になります。

部下から上がってきた内容を社長に確認する。
社長の意向を部下に伝える。
会議では状況を報告する。
判断が必要なときは「社長に聞いてみます」と言う。

この状態では、管理職は経験を積めません。

管理職は、判断し、失敗することで育ちます。
判断し、結果を見て、修正し、次の判断に活かす。
この繰り返しが必要です。

しかし、社長が常に最終判断をしていると、管理職は判断の手前で止まります。

結果責任を持つ経験も少ない。
部下に説明する力も育ちにくい。
部署として優先順位を決める力も弱い。
他部署と調整する力も伸びにくい。

そして社長は、「管理職が頼りない」と感じるようになります。

しかし、管理職が頼りないのではなく、頼れる管理職になるための判断経験を与えていない場合があります。

管理職を育てたいのであれば、研修だけでは足りません。
管理職に判断させる場面を作る必要があります。

もちろん、すべてを任せればよいわけではありません。重要な判断やリスクの高い事項は、経営者が関与する必要があります。

しかし、日常的な判断まで社長が握り続けている限り、管理職は育ちません。

■ 社長確認は、意思決定を遅くする

社長に確認すれば、最終的には正しい判断に近づくかもしれません。

しかし、その判断が遅れれば、機会を逃します。

顧客対応では、返答の遅れが信頼低下につながります。
採用では、判断の遅れが候補者離脱につながります。
価格改定では、決断の遅れが利益率低下につながります。
業務改善では、先送りが現場の疲弊につながります。

細部に至る社長確認が常態化した会社では、仕事のあらゆる場所に”待ち時間”が発生します。

担当者が管理職に確認する。
管理職が社長に確認する。
社長の予定が空くまで待つ。
社長から修正が入る。
再度確認する。

この流れが繰り返されると、組織全体の速度が落ちます。

問題は、社員が遅いのではありません。
意思決定の構造が遅いのです。

そして、意思決定が遅い会社では、現場の主体性も弱まります。

どうせ社長確認が必要になる。
自分で考えても、最後に覆るかもしれない。
それなら最初から社長の意向を確認した方がよい。

このように考えるようになります。

結果として、社員は提案を出す前に、社長の考えを探るようになります。管理職も、自分の考えを持つより、社長がどう判断するかを予測するようになります。

この状態では、組織としての思考力が落ちます。

本来、組織には複数の視点があるはずです。現場には現場の情報があり、管理職には部署を束ねる視点があり、経営者には全体最適の視点があります。それぞれの視点がバランスよく働くことで、会社の判断力は高まります。

しかし、すべてが社長確認に集まると、判断は一つの視点に集約されます。

これは、短期的には統制が効いているように見えます。
しかし長期的には、組織の判断力を弱めます。

■ 社長が確認したくなる理由も理解する必要がある

ここで重要なのは、「社長が細かいから悪い」と単純に言わないことです。

社長が細かいことまで確認したくなるのには、理由があります。

過去に任せて失敗した。
顧客対応で大きな問題が起きた。
社員が報告を怠った。
管理職の判断が甘かった。
数字を見ていない社員が多い。

このような経験があると、社長が細部まで確認したくなるのは自然です。

中小企業では、一つのミスが大きな損失につながることがあります。主要顧客との関係が悪化すれば、売上に直結します。資金繰りに余裕がなければ、小さな判断ミスが大きな影響を持つこともあります。

だから社長は、慎重になります。

この慎重さ自体は、会社を守るために必要なものです。

問題は、その慎重さをどのような仕組みに変えるかです。

社長が直接すべてを確認するのか。
それとも、判断基準を整備し、管理職が確認できる状態を作るのか。
報告ルールを決め、リスクの高いものだけが社長に上がるようにするのか。
ミスを責めるだけでなく、再発防止の仕組みにするのか。

ここで差が出ます。
社長の不安を、組織の仕組みに置き換えることができれば、会社は強くなります。

社長確認を減らすとは、社長が無関心になることではありません。
社長が見るべきものと、組織に任せるべきものを分けることです。

■ 任せるとは、放置することではない

社長確認を減らそうとすると、「任せる」という言葉が出てきます。

しかし、この「任せる」を誤解すると、組織は混乱します。

任せるとは、丸投げすることや、放置することではありません。

任せるためには、前提が必要なのです。

  • 目的が共有されていること
  • 判断基準が示されていること
  • 責任範囲が明確であること
  • 必要な情報が渡されていること
  • 途中で相談できる場があること
  • 結果を振り返る機会があること

これらがないまま「任せた」と言っても、任された側は困ります。

特に管理職に対しては、任せる範囲を明確にする必要があります。

  • どの金額まで判断してよいのか
  • どの顧客対応は報告だけでよいのか
  • どの事項は事前承認が必要なのか
  • 部下の評価や配置について、どこまで裁量があるのか
  • 部署内の業務改善をどこまで進めてよいのか

ここが曖昧なままでは、管理職は結局確認します。

任せるという言葉だけでは、組織は動きません。
任せられる構造を作る必要があります。

そして任せた後も、経営者は完全に手を離すわけではありません。

  • 結果を見る
  • 必要な報告を受ける
  • 判断がずれた場合は修正する
  • 良い判断は評価する
  • 失敗した場合は、責任追及だけでなく原因を整理する

このような関わり方が必要です。

社長が細かく確認する会社から、管理職が判断する会社へ移行するには、単に社長が我慢すればよいわけではありません。

任せる範囲を設計し、確認の仕方を変える必要があります。

■ 確認すべきものと、任せるべきものを分ける

社長確認を減らすためには、まず確認事項を分類する必要があります。

すべてを確認しない、という話ではありません。
むしろ、本当に確認すべきものを明確にするために分類します。

例えば、社長が見るべきものには、次のようなものがあります。

  • 会社の方針に関わる事項
  • 資金繰りや大きな投資判断
  • 主要顧客との関係に大きく影響する事項
  • 採用や人事評価の重要判断
  • 法的リスクや労務リスクが高い事項
  • 組織変更や幹部人事に関わる事項

これらは、経営者が関与すべきです。

一方で、日常的な業務判断、軽微な顧客対応、通常範囲の見積調整、社内資料の細かな表現、部署内の業務配分などは、管理職や担当者に任せられる部分があるはずです。

もちろん、会社によって範囲は異なります。業種や顧客特性、社員の成熟度、管理職の経験によって、任せられる範囲は変わります。

だからこそ、自社なりの基準が必要です。

金額で分ける。
顧客重要度で分ける。
リスクの大きさで分ける。
影響範囲で分ける。
前例の有無で分ける。

この分類があるだけで、確認は減ります。

社員も判断しやすくなります。
管理職も責任を持ちやすくなります。
社長も本当に見るべき事項に集中できます。

社長確認が多い会社では、すべてが同じ重さで社長に上がっていることがあります。

しかし、経営判断には重さがあります

すべてを同じように見るのではなく、見るべきものを見極める。
これが、社長の時間を守り、組織の判断力を育てる第一歩です。

■ 社長の時間は最も重要な経営資源である

中小企業において、社長の時間は極めて重要な資源です。

社長が何に時間を使うかで、会社の未来は大きく変わります。

新しい事業の方向性を考える。
主要顧客との関係を深める。
金融機関と対話する。
幹部を育てる。
組織の課題を整理する。
数年先の投資判断を行う。
会社として何をやめるかを決める。

これらは、社長が本来時間を使うべき仕事です。

しかし、細かな確認業務に時間を取られていると、こうした仕事に向き合う時間が失われます。

社長が忙しい会社は多い。
しかし、忙しさの中身を見る必要があります。

未来を作るために忙しいのか。
現場の確認作業で忙しいのか。
社員が判断しないために忙しいのか。
管理職が機能していないために忙しいのか。

ここを見誤ると、社長は常に忙しいままです。

社長が細かいことまで確認している会社では、社長の時間が「会社の現在を維持するため」に使われがちです。

もちろん、現在を守ることは重要です。
しかし、それだけでは会社は前に進みません。

社長が未来を考える時間を持てない会社は、環境変化への対応が遅れます。事業の見直し、人材育成、収益構造の改善、資金戦略。こうした重要課題が後回しになります。

社長の時間を空けることは、単なる効率化ではありません。
会社の未来を作るための重要な経営課題なのです。

■ 小さく任せることから始める

社長確認が多い会社が、いきなり大きく権限移譲するのは危険です。
管理職が慣れていない。
社員も判断経験が少ない。
社長自身も不安が大きい。
判断基準も十分に整っていない。
その状態で急に「これからは任せる」と言っても、うまくいきません。
必要なのは、小さく任せることです。
まず、リスクの低い業務から任せる。
判断基準を示したうえで、管理職に決めてもらう。
結果を報告してもらう。
うまくいった点、改善すべき点を振り返る。
少しずつ範囲を広げる。
この積み重ねが必要です。
例えば、一定金額以下の見積調整は管理職決裁にする。通常顧客への軽微な対応は担当者判断にする。社内資料の細部は部署内で完結させる。採用候補者への一次対応は現場責任者に任せる。
このように、小さな判断経験を増やしていく。
重要なのは、任せた後に生じた失敗を否定しないことです。
最初から社長と同じ精度で判断できる人はいません。
判断には経験が必要です。
経験には、一定の失敗や修正が伴います。
もちろん、会社に大きな損害を与える失敗を放置してよいわけではありません。だからこそ、任せる範囲を設計し、小さく始める必要があります。
小さく任せ、小さく振り返る。
この繰り返しが、管理職と社員の判断力を育てます。

社長が細かいことまで確認してしまう。
それは、社長の性格だけの問題ではありません。
判断基準が共有されていない。
管理職が判断経験を積めていない。
過去の失敗から社長が不安を抱えている。
任せる範囲が整理されていない。
社員も、社長確認を最も安全な選択肢だと考えている。
こうした構造が積み重なって、社長確認は増えていきます。
しかし、その状態が続くと、会社は社長一人の処理能力に依存します。
社長が見ないと進まない。
社長が決めないと動かない。
社長が確認しないと安心できない。
この状態では、会社は大きくなりにくい。
管理職も育ちにくい。
社員も判断しにくい。
社長自身も、未来を考える時間を失います。

社長が見るべき重要事項に集中し、日常的な判断は管理職や現場に任せる。
そのために、判断基準を整え、権限を整理し、小さく任せ、結果を振り返る。
この積み重ねが、社長依存を少しずつ弱めていきます。
社長が休めない会社は、危うい。
同じように、社長がすべてを確認しなければ動かない会社も、危うい。
社長の確認が会社を守る場面はあります。
しかし、社長の確認が会社の成長を止めている場面もあります。
どこまでを見るのか。
どこから任せるのか。
どのように判断基準を共有するのか。
その整理こそが、会社を一段強くするための出発点です。

この記事を書いた人

社会保険労務士 / 中小企業診断士

谷中 憲

(たになか あきら)

中小企業にて経営企画部門と総務部門のマネージャーとして組織運営の最前線で実務経験を積む。その後、社会保険労務士および中小企業診断士の資格を取得し、経営・人事・広報の専門知識を体系的に習得。現在は経営・人事オフィス畔を設立し、中小企業の経営課題解決に取り組んでいる。企業の内側に入り込み、現場の実績を深く理解した上で、実務的で実現可能な解決策を提案することを信条としている。

Related articles

まずは、
お問い合わせください。
まずは、お問い合わせください。

当事務所では無料相談も行っています。
なにから手をつけたらよいかわからない、そんな状況でもお気軽にご相談ください。